愚か者は誰だ?
──誰もが愚かだ。
ヒューマンエラーについて概要。
人が人として人である以上、論理的な意味での誤作動は常に起こしうる。
脳がただの学習装置に過ぎないのであるならば、性善説や性悪説など無意味だ。
同様に意識せずに常に正しくあることも、間違う事もない性質を獲得する事は不可能である。それはつまり
厳密な意味で。
要するに、“人が関わり”それでも直、絶対に間違いを起こさない事象など存在しない。

「はてさて、云いたい事は山ほどあるのだが、しかしでも、どうにも筆が進まんのだ」
「それは一体誰に対するいい訳ですか?」
「言い分けるつもりは、別段ないのだ。ただ、これはどうしても幾分かサボってしまった事に対するある意味で贖罪なのであろうと思う」
「予定調和。或いは様式美という奴ですね」
「否定はしないな。だが結局、悪をなしてしまったのであるならばそれに対する説明責任ぐらいは果たすべきだ。それは誰に対してではなく、自分に対するものである」
「自分に対する言い訳?」
「自分に対する説明だな」
「それって必要なんですか? 普通にあまり意義を感じられないんですが」
「やりたくもないのにやらされるなら大した意味はないだろうがね。反省文の提出など、まぁ形式に意味があり、儀式をすることで自覚を促すという事ならばそれは一つの手法として間違っちゃいないとは思うよ」
「あなたの場合、これはもうかなり形骸化した儀式のような気がするのですけれどね」
「それこそを様式美というのだろうさ」
「自分で言ってれば世話は要らないですね」
「まさにその通りだと、おれも思うよ」
----------------------------------------------------------------------------------------
「書きたい事は山ほどあるというならさて、それは一体どんな内容なんですか?」
「それを云ってしまうのは多少ネタバレだな。興が削がれるとも云う」
「それってじゃあ何も予告するつもりはないという事ですか?」
「別になんもかんも云うつもりがない訳じゃないがね。往々にして俺の場合、小ネタがネタの中心なのさ。だからネタをいう事は核心を云うという事だ。それは些かつまらないと言うものだろう?」
「たぶん読んでる人は誰もあなたが云いたい事を理解できないと思いますよ。その小ネタですら」
「そりゃあ困ったな。──いや、別にいいのか」
「いや、良くないでしょ」
「ああ、良くないな。しかしさて、でもまともに反応も返ってこないんだ。なにを書いてもさ。だったら理解されてないと俺が思っても無理はないよな」
「愚痴を言っても始まりませんよ」
「要求だよ、これは」
「誰に対するどんな要求ですか?」
「読者に対する、もっと突っ込んでくれという要求さ」
「あなた基本的に突っ込み待ちですからね」
「あんな突っ込みだらけの内容に誰も突っ込まないとかあれだな、みんな物凄い精神の持ち主なんだな。俺だったらとてもじゃないが耐えられない。云いたい事は全部言ってしまうよ」
「心の中でですけどね」
「だってコメント残すのメンドクせーじゃん。どの道、コメント程度で俺の考えを全て披露できるわけじゃなしに」
「あなたの読者だって同じ事を考えていると思いますよ」
「………………マジデ?」
「でじま」
「何か食べるかい?」
ソファにもたれかかりながら本を読んでいるとそんな声が後ろから飛んできた。
私は本から目を離して首をそのまま後ろに倒した。
「何か作ってくれるんですか?」
「折角だからね。一人分作るよりも二人分の方が楽だし」
そう云って先輩は冷蔵庫のドアを開けた。中身を見た彼はうーんと唸っている。
「食材あんまりないなぁ──あ、ひき肉が冷凍してあるじゃん。じゃあこれでなんか作るか」
そうして暫くするとレンジが稼動する音が聞こえだした。
「何作ってくれるんですかー?」
「んーー? 玉ねぎとかあるしハンバーグでもと思ってるんだけどね」
「いいですねぇハンバーグ。ジューシーな肉汁がこうじゅわっと……」
「──こう云うのはなんだが男の手料理にあんまり期待はするなよ」
「しませんよ」
「そりゃあよかった。変に高望みされても困るからね」
そう云うと調理場のほうからバリバリと玉ねぎをむく音が聞こえてきた。
「そう云えば実験の方は大丈夫なのかい?」
「私の方はまだあと数時間はただインキュベータで培養させるだけですよ。そういうそっちはどうなんですか?」
「俺はただ結果を纏めてるだけでね。エクセル三昧さ」
玉ねぎをみじん切りにする音が響く。存外に手際は良いようだ。
レンジが音を立て、ひき肉の解凍を注げる。
「暇ならちょっと手伝ってくれないかい? ひき肉をそのボウルにあけてくれ」
「…………ま、別にそのぐらいなら良いんですけどね」
私は立ち上がって彼の居る調理場に向かう。あくびをかみ殺しながらレンジをあけ中のラップに包まれたひき肉を取り出す。
ボーっとした頭でそれをボウルに放り込むと、ふとそこで変な違和感を感じた。
ボウルの中に放り込んだ肉をよーく観察してみる。
「あの……すみません」
「ん、なんだい?」
「この肉──」
自分の目に映っているものが正しければ……
「腐ってません?」
普通なら発色は悪くても肉は肉。基本的には赤いもののはずだ。
だが目の前のひき肉はどう見ても……茶色を通り越して灰色が混じっている。
心なしか変な匂いもする。
えーっとつまりこれは──
「……これでハンバーグを作ろうというんですか?」
「──その通りだが?」
そう云って怪訝な顔をする先輩。
「こッ……」
私はそのまま両腕を大きく振り上げた。
「こんなもん人に食わすなぁあああああ!!!」
人間は本当に切れたらちゃぶ台をひっくり返せるらしい。親父の気持ちが解った気がする。
「半分腐った肉で作ったものを人に食わせようとするとかどんだけ無神経なんですかあなたは!」
「大丈夫だ、このぐらいじゃ何も起こらないよ」
「よくねーー!! こんなん普通の飲食店でやったら賠償問題の後盛大につぶれますよ!」
「別に俺は金を取って喰わせようとしてるんじゃない。故にモーマンタイだ」
「ただでも食わせるな!!」
「喰えるだけでも神様に感謝しないとな」
「この飽食の時代になにをほざきますか!」
「世の中には喰いたくても食えない人間が……」
「うわーうぜー好き嫌いの多い子供を説教する方便がこんなにもうざく聞こえるー!」
「わがままの多い奴だ」
「腐ったもんはNo Thank youだよ誰でも!」
私がひとしきり絶叫したのを見届けると彼は油をいれ熱したフライパンにみじん切りの玉ねぎを放り込んだ。
「そうか喰わないのか──じゃあ自分で食うものは自分で用意してくれ」
「そうさせて頂きます先輩」
そう云って私は台所の片隅をあさってカップラーメンを見つけ出した。
腐った肉で作られたハンバーグよりは100倍ましである。いや、1000倍。
先輩は軽く炒めた玉ねぎを皿に取り出し余熱を取り始めた。その間にひき肉をスプーンでグリグリとかき混ぜ始める。
「っていうか本当に食べるんですか? その肉」
「そのつもりだけど」
私はポットに水を入れながら大きくため息をついた。
「どうみてもその腐り掛けのひき肉はやばいですよ──だって変色して異臭まで放ってるじゃないですか。ダブル役満ですよ。死んじゃいますよ」
「んーーー……大丈夫じゃね? この程度じゃ死なないって。悪くて腹壊すぐらいだ」
「あぁ、腹壊すかもとは思ってるんだ」
「鋼鉄の胃袋は持ってないからなぁ残念ながら」
そうぼやきながら彼はひき肉に手早く調味料を混ぜていった。塩コショウに醤油、軽くサラダ油。
それでも美味しそうに見えないあたり、本気で腐ってやがる。
「っていうか食中毒は不味いですって、マジデ。今の時期ピークは過ぎたといってもまだO−157とかは怖いですしね」
「大丈夫。流石に今回はミディアムレアにはしないさ。中まできちんと火は通すよ」
「いやそれでもですね……」
私の言葉を半分に聴きながら彼は熱の取れた玉ねぎを入れた後、卵、そしてパン粉をひき肉に混ぜて行く。
「どうみても半分腐りかけですよね? こうなってくると怖いのは食中毒菌だけじゃなくて、腐敗菌が吐き出した毒素でもあってですね」
「まぁ確かにそれはあるな」
「解ってるならどうしてそんな余裕なんですか……」
「火を通せばなんでも喰える」
「あなたは消し炭でも食べる気なんですか?」
「何を云う。そんな発がん性物質、腐った食べ物より危険じゃないか」
「腐った食べ物も十二分に危険だよ馬鹿!!」
私の叫びも虚しく彼はひき肉をドンドンと成型していく。
小麦粉を表面につける作業も怠らない。
腐敗と食中毒は厳密には異なるのだが、兎に角見た目に危険信号が出ているのにそれでも喰おうとしているコイツの気が知れない。(※1)
「あなた見てるとなんだかうちの親父思い出しますよ……腐りかけが美味いんだとかほざいて明らかにやばそうなのポンポン食べるんです。止める人間の気にもなってくださいよ」
「腐りかけが美味いのは本当だろう?」
「そんなのは俗説ですよ。正確に言えば認識がずれてます」
「細菌が肉のたんぱく質などを分解する事で旨み成分であるアミノ酸を生み出したり肉を柔らかくしたりってのが?」
「ついでに酸味成分でもある乳酸や腐敗アミンなども生み出し、その過程で腐敗臭である硫化水素やアンモニアも発生しますよ。第一どんな菌がその中で増殖してるのかも知れないのに、よくそんな腐りかけのものなんか食べられますよね」
「冷凍していた肉だからタブン恐らく、この中で増殖しているのは世間一般で言われるような食中毒菌じゃないと思うよ。極低温、氷の中でも活動できる細菌は限られているからね」
「極低温でも微増殖できる食中毒菌は居ますよ……だからなんなんですか全く」
それでも彼は手を止めることなく新しく用意したフライパンを火に掛け始める。
「あれですか? 自分だけは大丈夫とかそういう理屈ですか?」
「うん? ──うーん、自分だけは大丈夫…………なるほど、ね」
「?」
彼はなにやら思案げな顔をした後、むっすりと黙り込んでしまった。
それでもその手は止まらずにどんどんと腐り肉団子を手早く焼き始めてしまう。
本当に食べる気なのだろうか──だんだん本当に心配になってきた。
そうこうしている間にポットのお湯が沸いたようだ。
私は不安になりながらも自分のカップラーメンの用意をし、ソファの前に戻る。
あの危機意識の欠如というのはなかなか度し難い気がする。
自分だけは大丈夫、という認識は結局のところ、それがなんの意味もない錯覚であることを如実に語る。
誰一人特別な人間はおらず、ただ突然のアクシデントで、人は死んで行くのだ。
まさかこの自分が、という意識を抱きながら。現実とは常にそういうものである。
それを本当に理解しているのだろうか……?
そんな事を悶々と考えているといつの間にか先輩が大量のハンバーグを皿に乗せて目の前にやってきた。
「なんだ、まだ喰ってなかったのか。麺が延び延びになるだろう」
「あ……やっちゃった」
つい考え事すると没頭する癖が出てしまった。蓋を開けるのが怖いぐらい時間が経ってしまった気がする。
「あれかい? カップラーメンは20分ぐらい放置して食べるのが好きなのかい?」
「そんな人間が居たら見てみたいですね」
私は諦めてカップラーメンの蓋を開ける。案の定、殆ど汁が残っていない。
腐った肉よりはましだがこれも大分わびしい感じがするのは何故だろう……
「それはそうとハンバーグはどうなんですか?」
「ん……? んー……普通」
そう云って彼はハンバーグを黙々と口に運ぶ。
「普通って……大丈夫っぽいですか?」
「ワカランが──可もなく不可も無くだな」
「って云うかハンバーグだけ食べるんですか?」
「ご飯を食べていたら全部食べられないだろう流石にこの量は……」
「ラップでもして冷蔵しておけば良いじゃないですか」
「そんな事してこんなもん他の人が間違って喰ったら一大事だろ常識的に考えて」
「あぁそれはそうですね……って! それをあなたは私に食べさせようとしたんじゃないですか!」
すると彼は一つため息をついてこう答えた。
「俺の目の前で食うのは構わないが、俺が目を離した隙にこれを食われるのは流石に寝覚めが悪いからな。知らないで食ったやつにも申し訳ないし」
「理屈になってねー!」
またもやちゃぶ台をひっくり返しそうになる私。
おちつけーおつくんだー
「本当に大丈夫ですか? 腹痛になったら云って下さいね。救急車ぐらいは呼んであげるんで」
「それはありがたいね」
そう云って彼はハンバーグを口の中に放り込んだ。
「それはそうとさっきの話だが」
「? 何の話ですか?」
「だから『自分だけは大丈夫』的な認識の話さ。おれ自身ね、実際そんな感じはするのさ。こんな腐った肉で作ったハンバーグを食ってる最中ですら、特に問題は無いだろうという感覚でね。なんとも不思議なものだ。云われてみるとこれはかなり、“異常”だな」
あぁ、一応異常だとは思うんですね……なんか変な感じですが。
「腐敗に対する危険性や食中毒菌のやばさはおれ自身、十分に認識はしているのさ。それでもどうしてだろう、全く怖くないんだ。この危機感の無さ、危機意識の欠如は、なんとも云えず心持の悪いものだな。違和感だ。全く危険性を認識していない自分の心が“気持ち悪い”」
「はぁ……それはどいしてなんででしょうね?」
「さて、どうしてだろうと思う? お前はどう思う?」
「え、私ですか?……」
いきなり回答を要求されて窮する私。
「といっても、あなたの心理状態なんか知りませんよ──解るわけ無いでしょう?」
「何を言ってるんだ。こんなのは俺に特異な心理現象じゃないだろう。人間誰しもが持つ感覚だよ。人は常にね、正常な危機意識というものを持たないものだ。解るか? 誰でも大抵の場合、“自分だけは特別だ”なんて、そんな妄想の中で生きているものさ」
「そんなもんですか?」
「そんなものさ。正常で客観的な現状把握を定量的に認識できている人間などいやしないね。それはまさに、現実的な人間像じゃない。人はいつでも、思い込みの中で生きている」
「はぁ……で、じゃあだからなんなんですか?」
「この危機意識の無さを、説明しろっていってるだけさ」
話が回りくどい。
「なるほどね……えーっと、じゃあ──つまり、あれですよ。平和ボケ」
「俺は今この日本の状況は非常にヤバイと思ってるんだけどな。平和ボケとはとてもじゃないが云えない精神状態だ。誰がこんな日本にした!」
「あぁそうなんですか……じゃあそうですね──意識が乖離してるんじゃないですか?」
「俺は精神病を患ってねー」
「他人事なのかも?」
「他人がこのハンバーグを食べても別に心配しネーけどな」
「いや流石に心配してあげて」
「他にはなんかないのか?」
私はそこで少し真面目に考えてみる。
「う……じゃあそうですね……そんな風に危機を感じたら常に回避している、なんて生き方をしていたら人間はまともに生きていけないからじゃないですか? 食い物の安全性が常に確保されているわけでは在りませんし、どこかでそうやって危機感を感じないようにしないと“生物的に生きていけない”んですよ。だから、危機感をなくしているんです──その脳が」
「ほう、なるほど。良い線いってるな。……だが、それも少し違う。そんな回りくどい話じゃあないんだよ。ワカランか?」
そうこう云いつつも食の手を緩めない彼。ただ単に神経が図太いだけなんじゃないだろうか。
「えーっと、じゃああれですねきっと……経験則的に大丈夫だって解ってるんですよ、たぶん」
「ほう──経験則で安全だと認識しているからこうやって喰えるのかと。ナルホドね……だが少し違うな。俺はそれほど腐った肉を調理するという経験はした事がないよ。故に、“経験則的に安全である事を知っている”訳ではないんだ。そもそも、そんな経験は当てにならないだろうよ」
「う……じゃあなんなんですか?」
「ふん──そこまで云えば正解もすぐ其処なのにな。──つまりさ」
彼はそう云ってハンバーグを突き刺したフォークをこちらに向けた。
「“逆”なんだよ、“逆”」
「…………ぎゃく?」
「そう、逆。真逆」
そう云ってフォークを口に運び、ハンバーグを食べる彼。
「経験則で安全である事を知っているんじゃない。“危険である事を経験則的に知らないから”だよ。それなら総ての理屈が説明できる」
「はぁ──そう違わないと思うんですが」
「そうか? これは大きな違いだよ。そもそも安全である事を経験則で知っているからといって、それが絶対安全であるという保障にはならないんだよ。そんな経験則は思い込みだ。だが、危険である事を経験則で知らないというのは違う。本当に危険であることを知らないから、人は危険な事でも出来るんだ。こんな風に、“腐った肉を食べる事もできる”」
「うぐ……」
あの半分腐ったひき肉の映像が頭をよぎる。
「なるほど、それなら総ての説明がつく。危機意識が低いのは、経験が無いからだ。危機感の欠如は、危険である事を本当に認識しては居ないからさ。おれ自身、実際に食中毒にはなった事がなくてね。そんなことが本当に起こる等と、全く考えてもいはしないのだろうよ。……その危険性を具体的に知っては居てもね」
そう云ってまた一口、肉を食らう。
「生物はそもそも、“危機感”などという認識的神経機構は持ってないよ。彼らは常に本能と経験則によってのみ動く。事前に起こりうる危機というものを想定する事はない。彼らが物事を忌避する場合、それは危機感による行動ではなく、ただ本能的にそれが危険であることを知っているからに他ならない」
「でもじゃあ人間はどうして危機感という概念を作り出したんですか?」
「それは人間が意識を持っているからさ。或いは“恐怖”か。この複雑で高度な社会の中にあって、危険は山ほどある。さて、致命的な失敗を犯す前に人間は危機感を持たなければ生きていけない。……だがね、危機感というものを完全にコントロールするのは至難の業なんだよ」
「はぁ──それは何故?」
「簡単な事だ。人間はヒューリスティクスな思考によって判断するものだからさ。簡略化した思考の中で簡略化した危険性を感じ取るに過ぎない。要するにさ。大抵の判断は極端に振り切れるものなんだよ。安全であるか、危険であるか、その両極端にしかならないんだ。リスクマネージメントってのは、ある意味で人間の心理を本当に理解してなけりゃ出来ない芸当だよな」
彼はそして半分ぐらい肉を残したまま、フォークとナイフを皿に置いた。
なにをするのかと思うと彼は台所に行って、すぐに戻ってきた。麦茶の入った容器とコップを持って。
「ときに、リスク認知って知ってるか?」
「リスク認知って……あの能動的か受動的かとかの? 飛行機事故を怖がるのは馬鹿馬鹿しいとかいう」
「ま、その通りさ。リスク認知ってのは要するに、『不確実な事象に対する主観的確率や損失の大きさの推定,不安や恐怖,楽観,便益,受け入れ可能性などの統合された認識の事である。それは,人に共通する情報処理能力の限界と,知識や価値観,性格などの個人差に依拠している』という訳だ。
人間はリスクを過大、あるいは過小評価をするものだ。殺人を不必要に怖がるのは過大評価。癌になるとは思いもしないのは過小評価。リスク認知と現実にはかのように乖離現象が存在する」
彼は麦茶を一気飲みするとカハーっと息を吐き出した。
やはりこいつは神経が図太いうんだと思う。
「細かく説明するのは省くが、兎に角人間の心理ってのは一筋縄じゃいかなくてね。情報量や知識、主観的確率推定、リスクコントロール、利用可能性ヒューリスティック、どれくらい有名か代表的なものに囚われもするし、直感だけに頼ったりする。確率の過大評価や過小評価も起きる。ほら、こんなにも人間の思考ってのは複雑で“単純”だ。リスクを正しく認識するってのは、もはや不可能だな」
「そんなに……不可能ですか?」
「原理的に無理だな。馬鹿なんだよ。人間ってのはね。実に、複雑な心理過程を経るくせに、嗚呼なんてことだろう、こいつらはみんな馬鹿ばかりさ。知っていようが知っていまいが関係ない。人間はどうしようもなく事実実際の危険性を知ることは出来ない。こんな人間が持つ“危機感”など、何の意味があるというのさ。そんなのはどちらにせよ妄想さ」
彼はそしてまたハンバーグを黙々と食べ始める。
「……いずれにせよリスク認知というものは簡単に説明できる。いや、簡単な理屈に還元できる、だな。それはね、“インパクト”だよ」
「インパクト……ですか──?」
「それを良く知っているならばそのインパクトは少ない。自動車事故に対するリスク認知がこれ。
それがより衝撃的な結果を生み出すならそのインパクトは高い。殺人や飛行機事故の過大評価。
未知のものはインパクトが大きいが、なじみのものはインパクトが少ない。新型インフルエンザが良い例。
自分から自分の為に行う行為はインパクトが少ない。喫煙や登山など。
テレビで頻繁に流され恐怖を煽る場合はインパクトが強いが、普段から情報を垂れ流しにされる事でインパクトは低減して行く場合もある。新規の病気や既存の病気。
高い確率はインパクトが大きいが、それが既知のものならインパクトは減少する。心臓病など。
低確率でも不安や恐怖が大きいものはインパクトが特に強い。殺人などの犯罪、未成年者略取や医療事故。etc....
リスク認知は過大評価と過小評価のオンパレードだ。人間はかのように、極端に判断するものだ」
「はぁ……」
なるほど確かに。
そう云われてみれば云っている事は良く解る。リスク認知とは云うほど、現実に即した認識ではないという事だ。
「認識はバイアスだらけで理解はヒューリスティクスだらけだ。こんな人間がほら、腐った肉を食うことに対する危険性を正しく認識できないのは実に普通の事だ。俺はこのことに対し、インパクトをなんら感じない。故にリスクは低いと判断する」
「実に危険な思考ですね」
「無駄極まりないな。正しくリスク判断できない人間はそのまま死んでしまえば良いのだ」
「あなたもですか?」
「はん……」
彼は馬鹿にしたように息を吐き出し、
「この程度のリスク認知は過小評価でも何の問題も無いさ。だがね、人々の生活に関わる大事なところで無駄に過大評価することや過小評価するのは、──それはとても見過ごせない欺瞞だよ」
そう云って彼は麦茶をあおり、コップを机にたたきつけた。
「忌々しい。大した危険性も無いのに恐怖を煽るマスコミも、今すぐ其処にまで迫った危機を見過ごす連中も、どいつもこいつも糞食らえだ。リスク認知もまともに出来ない奴ら、実に不愉快だな。混乱をもたらすのはいつだって無知なる者共だ。社会を巻き込んで、実に下らないな。一遍死んでくれ」
……どうやら日本の社会を憂いているというのは本当らしい──が。
「とりあえず落ち着いてくださいよ──私に当たられても困りますってば」
「あぁ全く……何が知的生物だ。こんな単純な認識も出来ないくせにえばり散らすなというのだ。リスクの過大評価も、過小評価も、実に無駄だ。殺人が、通り魔殺人が起きたからなんだというのさ。そんなのは確率の問題に過ぎない。騒ぐ理由が全く“わからない”」
「いや通り魔殺人は問題でしょうよ……」
「その事件自体は問題だがね。だがそれとこれは全く関係が無い。歩行者天国を廃止して、はてだからなんだというのだろう? 馬鹿じゃないか? そんな大騒ぎは全くの無意味だよ」
腐った肉に分解されたアルコールでも含まれていたんじゃないだろうか──本気でそんな気がしてきた。
「新型だかなんだか知らないが──……」
──
彼はふとそこで黙りこくってしまった。
「…………が? なんです?」
「腹が────痛い…………気がする」
ちょっとトイレに行ってくる──そう云ってふらふらと部屋の外に出て行った。
呆然としながらその後姿を眺める自分。
「…………ちょ、マジッスカ──」
そして喰いかけのハンバーグに視線を戻す。
確かに。彼のいう事はもっともだ。
リスク認知を正しく行える人間というモノはそうそういないのかも知れない。
問題は、結局人間というモノはリスクなどを全て簡略的に認識する以外に思考する方法がないという事なのだ。
受け取り方は所詮、主観であり、大抵の場合、さまざまなものによってバイアスが掛かる。
危険性の認識は経験則で決まり、感覚的なインパクトで決定する。
人間が大抵の場合、危機感なく行動するのは何も考えていないか、何も知らないか、あるいは何も感じていないかだ。
人間が過剰に危機感を感じる場合、それは過剰に評価しているか、無駄に関心があるからか、或いは恐怖が勝っているからだ。
あなたが死ぬ危険性を、あなたは定量することが出来ない。
それは数値化不可能で、故に感覚に頼るしかなく、その所為で過小評価か、或いは過大評価してしまう。
あなたのその感覚は正しい判断をもたらしているか?
それを考えた事はあるか?
無ければ、考えた方が良いだろう。
あなたのその感覚は、──“嘘をついているぞ”
※1:食中毒と腐敗の分類。http://www.h7.dion.ne.jp/~ramu4/hanasi/syoku/jo.html
※2:腐った肉を食う場合は気をつけましょう。というかやめましょう。著者は特に問題ありませんでしたが。
※3:あなたは自分の感覚が嘘をついているという事を理解できるか否か? 理解できる、或いは出来ないというならば、それが何故なのか説明できるか? それが今回の命題である。
「言葉で言うほど人の命ってのは重くないんだな。命の大切さを説くってのは大事だけれど、はてさてじゃあ、どこまでその言葉は正しいのだろうね?って所を考えるとさ、大抵の場合それはまやかしに過ぎないんだって事にいずれは気付いてしまうんだ」
「命は大切でしょう? 何にも増して」
「その言葉が端から実に嘘っぱちだろう。ただの命よりも大切なものなど、この世には掃いて捨てるほどあるじゃないか。あぁ、何てことだ。俺の言葉に対する反論が既に“下らない言葉”じゃないか。やめてくれよ、そんな妄言は聞き飽きただろう? 頼むからそんな軽口は口にしないでくれ。解るだろう? “真面目に答えろよ”」
「…………」
「軽口の次は沈黙かい? 真実は語り得ないと誰かが云ったね。語れるものは真理ではない。故に、真理を前に人は沈黙せざるを得ない。沈黙こそが真理だと。下らないな。実に宗教的だ。神はこの世には居ないよ。沈黙は美徳ではなく、ただの自己満足だよ」
「別に語るのを諦めたわけでは……ありませんが」
「じゃあ今まさに考えているのかい? 人の命が大事だという理由を? 恐ろしい話だ。お粗末ですらある。お前は人の命は大切だと、そんな軽口を云いながら、その実、結局のところ、お前はその理由を知りはしないというのか? 考えたことはないというのか? 今まさに考えねば答えることも出来ないほどに、お前は浅謀軽慮なのか?」
「別に、そんなの、幾らでも答えられますよ。だって、命がなくなったら、悲しむ人が大勢居ますもの」
「下らないな。悲しむ人が居るから、はて、じゃあなんなんだい? 悲しむ人が居るから、なるほど、その命は、粗末に扱ってはいけない? じゃあ、悲しむ人が一人も居ない人間の命は、軽いのだろうね。──途轍もなく、軽いのだろうね」
「そんな事は誰も……」
「一体何人の人間が悲しんでくれれば、僕には価値があるのだろうと。10人? 20人? それは果たして多いと云えるのかな? 多ければ良いと、言えるのかな?」
「多ければ良いなんて一言も……たった一人でも、それは──」
「たった一人でも? たった一人でしかないのに? そんなのは、ほとんど0じゃないか。お前に産まれてきた価値なんてなかった。大した意味なんかない。意味なんかないんだ。止めてくれよ。たった一人に生きてることを感謝され、じゃあ、どだいそんな事に意味なんかあるのかよ。たったそれだけで総ての価値が肯定されるなんて事、在る訳ないだろ。そんなのは、夢物語だよ」
「……でも、たった一人でしか生きていなくても──人にはその人固有の価値があるじゃないですか。何かしら特技があるじゃないですか。……それも、生きている価値でしょう?」
「固有の価値──ね。まぁそれはある。それはまさしく一つの価値だとおれも思うよ。でもさ、大抵の人間において、それぞれが持つ固有の価値など、それこそ高が知れてるだろうよ。お前の特技は何なんだい? 世界に誇れる技術かい? 自分自身、替えが利かない存在だとそんな風に思えるほどの者なのかい? ……そうでないならば、そんなものは比較的無価値だよ。」
「そんな……」
「お前が死んでも替えが居るぞ。お前の価値はその程度だ。お前の命も、その程度だ。凡百が、お前の意味だ。誰から見ても、赤の他人なのさ。お前が死んでも、人類の99.99999%の人間は悲しみすらしない。それが──凡庸な人間が持つ固有の価値だ」
「そんな……そんな言い方は──あんまりじゃないですか? それでも、私は此処に居ます。みんな生きてるんです。喜怒哀楽を持って、此処に居るんですよ」
「大多数の赤の他人が、だからなんだというのさ? お前が明日、電車に飛び込んで死のうとも、嗚呼なんだというのだろう。世界は小揺るぎもしない。誰も揺らぎはしないのだよ。明日誰かが死のうとも、俺はなにも変わらない。明後日誰かが死のうとも、お前はなにも変わらない。何処かで誰かが死のうとも、誰もがいつもと変わらない」
「止めてください! そんな、そんな悲しい事は云わないで下さい──誰かが死んでも、悲しむ人はいるんですよ。あなたが死んでも、誰かが悲しんでしまうんですよ……そんなの、──嫌じゃないですか……!」
「でも、事実だろう? 凡庸に生きるならば価値はなく、悲しまれないならば意味はなかったんだ。よしんば悲しまれたとして、悲しまれるなら死んではいけないのかい? 死ぬほど苦しんでいたとして、今すぐ殺して欲しいと思っていたとしても、あぁ、お前が死んだら誰かが悲しむんだ。だから“死んではいけないよ”。死んではいけないんだ。尊厳死って言葉、知ってるかい?」
「え──いえ、でも、それは……特殊な状況だから……」
「命の価値も、命の重さも、時と場合によって変わるのか? 今すぐ死にたいと泣き叫ぶ人間を殺すのは、そいつの命が軽いからか? 人の価値は、それぞれ違うのか。だったら、絶対に死んではいけない人間がこの世に何人居るんだ。別に殺してもいい人間は、どれだけいるんだ。俺は……殺されても大して意味はない人間か?」
「そんな人が……居るわけないじゃないですか。あなただって、誰だって──死んでも良い人なんか……居ないんですよ」
「居ないというのなら──祈ってみせろ。死んだ人間とたった今死んでいった人間の、その全てに祈り、悲しみの涙を零してみろ。……そんな事は土台無理な話だ。認めろよ。赤の他人など、所詮はどうなっても構わないのだと。誰が死んでも気にしないのだと。例えそう、この世をはかなみ、一日に数千人の人が自殺しようとも。お前は一年間、涙も流さずに生きていけるだろうよ」
「…………──いや、ですよ。そんな事いわれて、はいそうですなんて……云いたくないですよ。例えもしそれが事実でも……そう云われたら──泣きたくなってしまいます」
「それはね、一時的な感傷に過ぎないんだよ。彼らの死に対して悲しんでいるんじゃない。彼らの死を悲しめなかった自分に対して悲しんでいるんだ。自己憐憫だよ。ただの自己満足だ。解るだろ? 気付いているんだろう? その感情が、真実悲しむ心から来ているわけじゃないんだって事。その心は、“偽者”だぞ」
「偽者なんかじゃ……ないです──」
「じゃあ紛い物か。悲しむ人間が居るから死んではいけないなど、なんてまやかしだ。俺の命の重さを決めるのは俺だけだ。悲しまれる人間の数で決まるんじゃない。そんなものの為に生きてるんじゃない。悲しまれるから死んではいけない生きなきゃいけないなんて、そんな妄言で人を釣るな。そんな言葉で命を語るな。涙の数なんか本質“どうだっていいんだよ”」
「そんな生き方は……寂しいでしょう? 悲しいでしょう?」
「だから? なんだ? 愛がなければ人は生きていけないのか? 愛がなければ悲しいのか? 愛なんて、所詮は気分じゃないか。愛してるって云ったって、次の日には他の人と付き合ってるんだ。愛してと叫んだって、誰も見向きもしないんだ。幾ら子供を愛していたって、昼にはウキウキと買い物に出かけるのさ。邪魔だと思えば、親は子供を殺してしまえる。邪魔だったんだ。子供さえ居なければと、何度も思うんだ。夜泣きが煩くて、寝つきが悪くて、そんな事ですらイライラとするんだ。いっそ死んでくれれば良いって──そんな風にも思えるんだ」
「そんな事は……」
「愛してるって云ったのは嘘だったの? 僕は何で生まれてきたの? この世で一番可愛いと云ってくれたのはなんだったの。二人の愛の証だったんじゃないの。いつの間に僕は邪魔になったの。時間が愛を劣化させてしまったの。──誰もが愛されて産まれてきたというのなら。何故、寂しく死んで行く人間が後を絶たないんだ。もっとも愛されながら死んでいくのが最善だというのなら、産まれた瞬間に殺してしまえ。産まれた瞬間に、“殺してくれればよかったのに!”」
「やめて! 聞きたくない! そんな狂言は聞きたくもない!」
沈黙
「────だから、じゃあ、命の重さってなんなのさ。教えてくれよ。それは一体どうやって知れば良いのさ。心臓の音も、震える声も、俺の価値にはならないんだ。お前の価値ではないんだ。社会システムの維持? あらゆる人間は替えが利くぞ。命は無駄にしてはいけない? 自分の命が有益かどうかなんて、誰が保障してくれるというのさ。よしんばたった数人の人間に生存を許されたからといって、じゃあ、お前は有益な人間なのかい? 価値があるのかい? そんな凡庸な人生に……意味なんか在るのかい?」
「……あります。ありますよ。私は。私は──生きていたいんです。もっともっと楽しい事をしたいんです。泣きたいんです。笑いたいんです。あなたと、もっと話したいんです。綺麗な景色が、見たいんです。空を、見上げていたいんです。星が、月が、私は好きです。本も、もっといろんな物語が知りたいんです。音楽だって、なにかあれば、聴いてみたいです。カラオケだって、歌いたいです。そんな小さな幸せが、大事だと思うんです。恋だって、してみたいです。──だから、こんな普通の、私の、代わり映えのしない、何の変哲もない、きっと殆どの人には意味もない、関係もない、こんな、こんな人生でも、私は…………私は生きていたいです」
嗚咽
「そんな私でも……生きる意味を認めてくれますか──? 私の命を、大事だといってくれますか?」
「あぁ、大事だよ。お前の命は大切だ。大切にしなけりゃならない」
即断
「お前の命は、お前のものだ。他の誰に決めてもらうでもない。死んだら誰かが悲しむなんて後ろ向きな理由じゃない。誰かが困るなんて他人行儀な理由じゃない。お前の命は、お前が一番、大事にしてやれば良いんだよ。誰が、なんと、云おうともだ」
「……え?」
「自分の価値を、自分で認めろ。自分は自分の為に生きるのだと。自分の為にこの生を全うするのだと。──そして認めるんだ。自分と同じように懸命に生きている他者の価値を。自分が自分の為に生きるように、他人もその自分の為に生きているのだ。だから、互いに敬うんだ。遠慮や利他的行動じゃない。勿論、利己的になってもいけない。互いがその人生を大事にしていると云えるならば、出来るはずだ。敬えるはずだ。敬意を持って、接するのだ」
「敬意を……持って──」
「そうだ。涙を流せるほどに自分の命を大切に出来る人間なら、きっと他人の人生も認められる。他動的な理由じゃない、能動的に生きる意味を知っているならば。『死にたくない』ではない、『生きていたいと心から言えるならば』きっとお前は命の重さを“知っている”。……だから、蔑ろにしてはいけない。自分だけが良ければそれでいいなんてのは、本当に人生の、人の生の大切さを知っている人間の言葉じゃないんだ。教えてやれよ。人生はもっと大切にしなけりゃならないんだ。だから、“大切にしてやらなきゃいけない”んだ」
「大切に、してあげる……」
「そうだよ。だから、精一杯、大切にしてやれ。どれだけの人間を大切に思えるのかは解らない。そんなに多くはないのかもしれない。ましてや全人類を想えるなど、まやかしだ。それでも他人の人生を大切にしたいと思うなら、関わる人間の多くを、敬ってやれ。助けてやれ。それが、命を大切にするって事だ。自立した尊厳と、──それ故の尊敬だ」
「──はぁ……」
「他の何かに拠って生きるんじゃない。自分で、自立して、自己の尊厳を、確立するんだ。それこそが、それだけが、正しく命の価値を理解する事だ。他の聞こえの良い信仰にすがるな。それは与えられた価値観だ。命の価値を簡略化しているぞ。解り易い理由に思考停止するな。命の価値は、その程度じゃないぞ」
「……──じゃあ、あなたのさっきの言葉は一体なんだったんですか?」
「あぁ、何のことだ?」
「だから、価値がないとか、意味がないとか……」
「それは事実だろう? 実際のところ、そういうものだろう? 大多数に埋もれ凡百であるならば、価値なんか無いも同然だろう?」
「でも、今はそうじゃないという」
「自分の価値は、自分で見付けろと云ってるだけだ。凡庸であり、詰まらない人間であったとしても、“だからなんだ?” お前はそんな程度の真実で心が折れてしまうのか? 世界中の人間から無視されたら、生きていけないというのか? 他人に認められなければ、自分を認められないのか? とんだ価値観だ。お前、多数教に洗脳されているぞ」
「うぐ……でも──わざわざそんな事を云う必要はないんじゃないですか──?」
「真実を知らずに正しい事を語ることは出来ない。真実を直視せずに、ただ命は重いんだと喚くしか出来ないなら、そんな言葉に重みは無いぞ。例えそれが辛くなるような真実でも、それを乗り越えなければお前はいつまで経っても餓鬼のまんまだ」
「知らなくても良い真実もあるでしょう」
「そんな事実はこの世には一つも存在しない。知らなくて良い? 本気で云っているのか? 何も知らない人間の言葉になどなんの意味も無いぞ! そんなであるなら、お前の言葉の重みは零だ。そんなお前が語る命の重さも、言葉と同じく零になる。そのような妄言では誰の心も動かせないぞ。命が大切であるというならば、命の真実を知れ。それを知らない人間に、“命の価値を語る資格”など在りはしないぞ」
「言葉に重みがあるならば」
「それこそがお前の語る命の重みだ」
「命が大切だと云うのなら」
「命の真実を知らなければならない」
「どっかの誰かに意味はなくても」
「生きる意味は確かに────あるのだ」
※1:今回は比較的頭が壊れた状態で書いてるので内容が酷い。これが一か月分の鬱憤か。
※2:一番云いたかったのは一番最後に云っている。それ以外はただの前振り。駄文
※3:それでもコレ読んでなんか思うところがあれば幸いです。あなたがどうかは知りませんが
フォルトゥーナ・アミーコース・コンキリアト・イノピア・アミーコース・プロバト
──順境は友を与え、欠乏は友を試す。
本当に必要なときにそばに居てくれる友人こそが本物であるという事。
![]() | 3月のライオン 3 (ジェッツコミックス) (2009/08/12) 羽海野 チカ 商品詳細を見る |
暖かい人間に囲まれる事は幸せな事だ。
本当に必要な事、知るべき事は、きっとまだまだいっぱいある。
『3月のライオン』は、是非とも、いろんな人に読んで欲しいと思う。
此処に在るのは、苦悩と救済の物語だ。
自分で考えてから投票するように
総選挙★当選・落選候補リスト(全選挙区版)
http://www35.atwiki.jp/kolia/pages/296.html
選挙に行く前に知りたい、放送されない政治家の思想と実績
http://senkyomae.com/
こんな情報は、それこそ今更過ぎるのだけれど
いつものように中庭を通りながらサークル部屋に入ると、見知らぬ顔の男が1人、部長と机の上のチェス盤をはさみ顔をつき合わせていた。
「おはようございます……ってあれ、部長、その人は?」
二人が顔をあげ、こちらを見る。
「おはよう。今日は遅かったな」
「ちょっと今日の授業の復習をしていたもので──そちらの方は?」
知らない男は手を上げて軽く会釈をした。こちらも軽く頭を下げる。
「はじめまして。こっちはそうだなぁ、コイツの古い友人さ」
そう云って男は部長の方を指差した。
「中学が同じだっただけさ」
「つれないなぁ。こうして折角遊びに来てやったというのに」
「お前の暇つぶしに付き合わされて喜ぶ趣味はないよ」
どうやらそういう間柄らしい。私は荷物を置いて二人が挟んでいるチェス盤の横に座り込んだ。
「あれ、部長チェスなんか嗜むんですか?」
「いいや、こまの動かし方も知らないよ。ただこいつが少しは知ってるらしいからさ。教えてもらってるところだ」
「俺もまぁ、駒の動かし方と簡単な戦略ぐらいしか覚えてないけどな」
そう云って男はポーンの駒の特徴を説明し始めた。
「こいつは将棋の歩に当たる駒だが、動き自体はたぶん、一番複雑だ……ポーンは最初だけ──」
男はポーンの基本的な動きを部長に伝授して行く。
「なるほどね。という事は戦略自体も大分将棋とは違うんだな」
「あぁ、イメージとしては初めから詰め将棋してるような感じだ。やってみりゃわかる」
「ルールはそれでオワリか?」
「あぁ、じゃあそろそろ実践と行くか」
男はそのままチェスの駒を初期配置に置いて行く。
「黒が先手だ。お前からどうぞ」
「ふん…………」
軽く鼻を鳴らすと、部長はまず手始めにクイーンの前のボーンをニマス前方に動かした。
「……なんですか、それ」
「そういうものなんだよ」
「チェスのルールはかなり変則的だからね。将棋の駒使い廻しできないルール程度に考えてると痛い目を見るよ」
そう教えてくれた後、男は同様にクイーン前のボーンを同じようにニマス動かし、先ほどのボーンと真正面から向かい合わせる形にした。
……だいぶよく解らないゲームのようだ。チェスのルールぐらいは知っていた方が大人らしいだろうか。
日本人は知らない方が大半だろうと思うけれど。
「そははそうと」と、ふと気がついたように男は顔を挙げ、こちらを向いた。「君はこのサークルの部員?」
「え、えぇ。そうですよ。一年でまだ入ったばっかりですけどね」
「君も大分変わってるね。こんな何やってるかも解らないようなサークルに入るなんて」
「自分でもなんで入ったのか良く解らないんですよ」
そう云って今年の四月を思い返す。
他にも沢山あるサークルの中で、何故かこのサークルを選んでしまった自分。人員が多いわけでもなければ明確な目的があるわけでもない。……おまけに楽しそうでもない。
ただ時々旅行が出来る、みたいな話に惹かれたのだろうか。特に“タダで”という部分に。
「その癖、まだ一度も活動らしい活動はしてないんですよね」
「……毎週活動するようになったら死んでしまうな」
そう云って部長はナイトの駒を動かした。男もすかさずビショップを動かす。
チェス盤は意外と狭く、こうしてみると一瞬にして泥仕合になりそうだが、ルールを知らない私にはそれすらも良く解らない。
「ソレはそうと聞いてくれ。ウチの家にはポルターガイストがでるんだが」
男は唐突にそんな話を振ってきた。
「は? ポルターガイストって……本気ですか?」
「本気も本当さ。毎日色々と被害にあって困ってるのさ。あぁ誰か何とかしてくれないかナァ」
そう云って笑いながら男はルークを動かした。部長はそこではたと悩んでしまう。
「ポルターガイストって……具体的にはどんな被害にあってるんですか?」
「そうだなぁ……」顔を上に向け目を瞑り、思い出すように考え込む男。
「例えば扉が勝手に開いたり、逆にしまったり──モノがいきなり物凄い勢いで転がりだしたり。そんな感じかナァ。あ、あと時々物凄い音がする。バキッって感じの」
「────それ本当ですか?」
「嘘言ってどうするのさ。全部本当の事だよ」
そんな話をしながらも男は楽しそうにニヤニヤと笑っている。
「本当なら大変な話ですけど……笑い事じゃないと思いますが」
「ところが実は……本当なんだな。これが」
部長が軽く合いの手をいれ、ボーンをルークの射線上に動かした。
「あれ、部長知ってるんですか?」
「知ってるも何もこの目で見てきたからな。こいつの言ってることは全部本当のことだよ」
そういいながら部長は男を白い目で見た。
「お前、誰にでもその話振るのか?」
「そうか? 悪くない話題だと思うけどな。あくまで冗談なんだし別にいいとおもうけど」
「あぁやっぱり冗談なんですか」
「いや、ジョークだけど本当の話だよ」
だからどっちなんですか……
「霊障にあってるのは本当のことだけどあまり気にはしてないって事ですか?」
「ま、確かにもう気にはしてないね──」
男はそう云って肩をすくめた。なんだか本当に良くわからない話だ。
「うーん、友達に霊感がある女の子がいるんですけど……連れて行って見ますか?」
「マ ジ デ 。そりゃあいいね。是非お願いするよ」
小躍りしそうな勢いで喜ぶ男に、部長はおいと声をかけた。
「お前のジョークに他人を巻き込むな。あとさっさと駒を動かせ。──そしておい、その霊感のある女って誰だ。今度つれて来い」
「…………」
えーーー。なんか面倒な話になってしまった。どうしてこうなった。
「いいですけど……なんで私がそんな事しなきゃいけないんですか」
「サークル活動をより磐石なものにするためだ」
謎のサークル活動をオカルティックな方向に強化するのはどうかと思うけれど。
「で、結局なんなんですか、そのポルターガイスト。どうして欲しいんですか」
「どうする必要も無い。こいつの家の怪奇現象は別になんの変哲もない物理現象に過ぎないんだからな」
「扉が勝手に開いたりすることがですか?」
「その通りだよ」
部長は大して面白くもなさそうな顔をして男に顔を振った。
「いい加減に説明してやれ」
「やだよ。あれは本当にポルターガイストなんだぜ。俺がそう決めたんだ」
「……どういう事ですか」
本当によく解らないのだけれど。
彼らは何をいっているんだろうか。
「つまりさぁ」部長は仕方なさそうに片肘を突くと、
『こいつの家はひどく傾いてるんだよ』
そう云った。
「ポルターガイストの原因は全てそれ。扉が勝手に開くのは傾いてるんだから重力にしたがって動いてるだけさ。勝手に閉まるのも同じ事。モノが勝手に凄い勢いで転がるのは床が斜めになってるから。丸いものなら加速度の影響でかなりいきおいよく転がって行くよ。別に不思議でもなんでもない」
じゃあ、と私は口を開いていた。
「ラップ音の原因は……」
「家が傾いてるんだ。構造的に負荷が掛かってくる部分が勿論ある。音の原因は家が軋みを挙げているだけだよ。──そのうち本当にあの家は倒壊するだろうな」
「おいこら、そのうち俺の家が倒壊するかのような言い方はやめろ」
「事実を言ってるだけだ」
そう云って部長はビショップを動かした。「チェックメイト」
「……いつの間にか負けてるし」
「真面目に指さないからだよ」
「自分から誘っといてなんだけどチェスって意外と奥が深いな」
「将棋とは又違ったボードゲームだからな。下位互換と言うわけじゃないようだ」
部長は駒を並べなおし始める。男はしぶしぶとその光景を眺めている。
「と、そう云う訳だ。こいつの家に霊能力者連れていったってなんにもないぞ」
「よく解りましたよ……」
私は大きくため息をついた。本当のことで冗談とはそういう意味だったのか。
全く、まぎらわしい。……ま、正しい意味でジョークなのではあろうけれど。
「そういやぁ」と男はそこで口を開いた。
「霊能力とか超能力ってのも同じようなもんだって教授は言ってたな」
「同じようなもんだとは?」
部長が少し興味を持ったように顔を上げた。私も釣られて男の方を見る。
「つまり視点の問題だな。家が傾いてるってことを理解できない人間が、あれらのただの物理現象を怪奇現象と勘違いするようなものだって」
「しかし……どういう視点に立てば超能力などを普通の物理現象に還元できるんだ?」
「それは──そういう奴らは普通の人間には視えてない世界が見えるんだと。或いはそういう世界、物理現象が存在するのだと。それがどういう事かは知らないけどさ」
うーん、と男は話を思い出すように頭をひねり始めた。
「じゃあ心霊現象などはまだ人間が解明してないなんらかの現象による影響によって起こる物理現象であると?」
私はとりあえずなんとなくそんなイメージで話に加わった。
「まぁうん、つまりそんなところだと思う」
「そりゃあなんらかの現象だろう。現象でない事象などこの世には存在しないのだからな」
部長はなにを当たり前のことを、という風な顔で男を見た。
「で、その現象ってのは一体何なんだ?」
「さぁな。教授は『ヒッグスの海』が作用してるとかなんとか……あるいは『エントロピーへの極所作用』とか。『時間反転対称性 』かも知れないと云ったかなぁ」
「…………なんですかそれは」
何を云ってるのか全く理解できない。
「俺にもわからん」男はそう云って肩をすくめた。
部長の方は相変わらずむすっとした顔をしたまま微動だにしない。
どんな現象が作用しているにしても、私にはそれを理解できない気がしてならなかった。
ありとあらゆる謎が物理的に解明可能だとしても。
わたしにとって世界は傾いたままなのかもしれない。
傾いた家のポルターガイストを見抜けなかった私には、世の中は少し複雑すぎるのかもしれない。
あるいは……
総ては“慣れ”なのかもしれないな、とふと思った。
世界が斜めになっているなら、それに慣れた私に本質など見えるはずもない。
ソレは人間の意識、認識、魂そのものが異質であり、世界にとって傾いた存在であるからか。
斜めなのは世界か私か。
或いは全てが、異質なものか。
ソレを決めるのもやはり。視点以外にはありえないのだけれど。
「────非常に残念な事がありました」
担任はいつもより早く教室にやってくると、皆を席に着かせそんな言葉を口にした。
ここまで真剣な表情の担任は、ついぞ見たことがなかった。
……残念な事とはなんだろう? 僕は担任の口の辺りを眺めながら、ぼんやりとそう思った。
世界が滅ぶとか、だろうか。
「2年4組の……君達と同い年の──名前は伏せるが、1人の男子が昨日の夜、この学校の屋上から飛び降りて──死にました」
なるほど確かにそれは残念な事だろう。この学校にとっては。
そしてやはり、それは自分にとってどうでもいい事だった。
世の中はどうでもいい事で溢れている。
しかし──飛び降りたという事は、自殺、だろうか。
自殺とは……なんだろうか。
「遺書の類はなかったらしい。いじめの事実もなかったという話で──」
いじめはなかった、か。学校側の言い分など、今日日信じる学生がいるとも思えないが──
こう云っては何だが、そんな事は誰にも解りはしないのだ。
名前がわからないので仮にその男子高校生のことを“彼”としておこう。
その彼がどんな事にいじめを感じ、阻害を感じ、苦しんでいたのかなど、誰にも解りはしない。誰にもなにも、断言は出来ない。
それに遺書などなくても、彼の10数年の人生そのものが既にそいつの遺書のようなものだ、と僕は思う。
彼の人生をつぶさに調べ、観察し、考察すれば、彼の自死の理由など、紙に書かれていなくてもわかるというものだ。
「いずれみんなのところにも、事情を聞きに行くことがあるかもしれないが──」
──逆に言えば。
遺書を書くという事は自分の人生の一部を無理やり削り取って、人に説明するという事だ。自分はこれこれこういう理由によって、死に至ります、とね。
それは酷く虚しい行為に思えた。だって、俺の人生の終焉が、原稿用紙数枚分でしかない言葉によって結論付けられるのだ。それは、どうにも、承服しかねると、思う。
俺に興味がない奴に俺の死の理由を説明してやる義理はない。
知りたければ俺のことを調べろ。興味がないなら理由なんか聞くな……と、僕はそう思う。彼もそう思った、のだろうか。
そんなこと知りもしないけれど──
こんな風に考えるのは、自分が餓鬼だからなんだろうか。
それとも、綺麗に綴られた“詩”のような遺書を以って、自分の“死”とするという考え方も出来るかもしれないが。
……それは、下らない自己満足でしかないように思われた。
──そうか。
──だから、もし、自己満足のために遺書を残すのであれば。ソレは確かに遺書を残すに足る理由なのかも知れない。
遺書を読んだ人間が必要以上に悲しめば、苦痛に思えば、感謝をすれば、自分の事を想って、自分の為に涙を流してくれると、夢想できれば。そんな自己満足が。
親族も他人も周囲も何もかも一切合財を巻き込んで、自分の自己満足に付き合わせたいのかも知れない。
それは実にもっともらしく、人間らしく、迷惑な話だと思う。
迷惑を残す──それで少しでも“自分そのものを”遺す、という事か。
「だからせめて、一分間の間だけ、彼に対し、黙祷をささげて欲しいと思う」
担任はそう云って教室全体を見回した。
疑問に思う。何故、そんな事をしなければならないのか。
「じゃあ、黙祷、始めッ」
壇上の担任は目を瞑り、下を向いた。皆も同じようにそれに倣う。
それを確認した僕は、遅ればせながら目を閉じ、俯いた。
──みなは一体、この時間、何を考えているのだろうか。
中には真面目に黙祷している奴もいるだろう、不真面目な事を考えている奴もいるだろう。
それが普通なのだ。そうでなければ可笑しい。それが僕の人間観だ。
それとも、自分が可笑しいのだろうか。
だが……黙祷するといっても、『名前も知らない“彼”』に対し、いったい何を祈ればいいのだろうか。
それは、赤の他人だ。だってそれは……赤の他人なのだ。
これが知っている奴なら大分話は違うのだろう。
そいつの顔を思い浮かべ、名前を思い浮かべ、言葉を思い出しながら、例え浅い縁だったとしても、それでも多少の冥福は祈る事ができる。
だって僕は、そいつを知っているから。
でも、じゃあ、知らない人間の、それも自殺に対し、僕は何を想えばいいのだろうか。なにを想像してあげればいいのだろうか。
解らない。想像もつかない。
──これが想像力の欠如、という奴だろうか。
例えばじゃあ、彼が死んだ理由がわかれば、どうだろう?
いじめか、或いは勉強の悩みか。なにが辛かったのかも知らないし、なにに絶望していたのかもしれない。でもそれを遺書で知れば、もしかしたら、それを投影して、僕は彼に対し明確に祈りをささげられたのかもしれない。
……なんて云ったら。遺書というものは、生き残っている人間の我儘であるのかも知れないな、と思えた。
面倒なのだ、要するに。
僕は彼のことを理解するつもりなどないし、その為に時間を割くつもりもない。
手っ取り早く、『お前の死のプロフィール』を見せてくれと、そう願っているのかも。
故に遺書を残さなかった彼のそれは、理解に対する拒絶とも受け取れた。
ただ好奇心を満たす為だけの興味になどに、自分の死の理由を明かす理由はないと。
それは強い意志の表れだったのだろうか。
そして、自分の親に対してすら、彼はそう思ってのだろうか。そこまでの拒絶を。
────解らない。
結局、今此処で僕が何を考えたところで、彼が何を考えたのか、その本当のところなど解りはしないのだ。遺書がないのは、それこそが自己満足のためか、彼の拒絶なのか、はたまなた、意味などないのか。
解りはしない。
同様に、彼が一体何を考えて屋上から飛んだのかなど、解りはしない。
どれだけの苦悩を内に秘め、どれだけの苦痛を世界に感じていたのか、どれほどの絶望を手にしていたのか。
死にたがる理由など……自分にはまだ良く解らなかった。
こう云ってはなんだが、この世の中という奴は真面目にだけ生きるには少々辛い所だ。
正しく生きる事は否定しないし、それこそ心性として賞賛されるべきではあるが、しかしとて、そう生きれば全てが万事上手く行くという訳でもないのだ。
真面目に考える人間が、結局は多く働かされるようになる、という側面は否定できないだろう。
真に目に訴えれば、総ての人間が真面目になってくれる、という訳でもないだろう。
正直で、真面目で、責任感が強い人ほど、割を食う可能性は高くなるだろう。
よしんばそうとは言い切れずとも、そのストレスは常人には計り知れないものだ。
結局、みんな何処か不真面目に生きているし、それが楽な生き方であると自覚しているはずなんだ。
そういう風に生きられない、本当に真面目腐った人間から──世界に見切りをつけていってしまうのかもしれない。
不正から目を逸らせない、真っ正直な人間にとって、この世界はどれほど、醜く歪んで映るのだろう。
そういう自分を変える事が出来ず、かといって世界も変えられなかった人たちが次々に死んでいくのか。彼も、その中の一人だったのだろうか──
────もし
もし、死ぬ前に話が出来たならば。
その辺の話を、じっくりとしてみたかったと、そう思った。
「……──はい。黙祷おわり。みんなありがとう」
そう云って担任は顔を上げた。とたん、教室に小さなざわめきが戻る。
この一分間の間に、世界は変わっただろうか。
皆は、なにを想ったのだろうか。
「それじゃあ今日の連絡だが……まずはこのプリントを回してくれ」
担任の先生が持ってきた用紙を前の列にいる生徒に順次手渡して行く。
それだけで、全てが日常に回帰して行くようだった。
ざわめきが又一段と大きくなり、普段のボリュームへと戻っていく。
あぁそうか──とぼんやり想った。
関係のないクラスの生徒は……葬式には呼ばれないのか──と。
墜落追悼 ── 完
グロ・スプラッタ・殺人描写有り。耐性ない人は絶対に見ないように。絶対に。
多少SF。少しばかりラノベ。素人の書いたものだから期待は出来ない。全く








