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『都市なる伝説 Netlore』

都市伝説(としでんせつ、英: urban legend)とは、近代あるいは現代に広がったとみられる口承の一種である。

                      出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
『感情と、機械の生物 nothing but ism』

ふいに聞き覚えの無いメロディーが聴こえてきて、私は後ろを振り返った。
彼はそんな私の反応をよそに、知らない歌を口ずさみながら右手を空に向けて大きく伸ばした。
空の中に見つけた何かを掴むように。

「……それ、なんの歌ですか?」
「~~……っと。なに、古いアニメのオープニングテーマさ。あんまりアニメっぽくない曲だったけどね」

そう云って彼はまたよく解らない曲をフンフンと口ずさむ。
まだ少し寒さが残る四月の始まり。
軽く厚着をして上着を着込んだ私たちは、意味もなく日の沈み始めた街角を歩いている。
葉のない街路樹が延々と続く線路脇の道は、人通りもなく静かに時間を経過させ続けた。

「いきなりどうしたんですか?」
「いきなりとは何が?」
「あなたって別に今まで歌を口ずさむような事あんまりなかったじゃないですか。なんでいきなり」
「いやなに、ただ“懐かしかったから”だよ」

そう云って彼はフンフンと鼻の先で歌うのをやめた。

「動画共有サイトで懐かしいモノを久しぶりに見かけてね。勢いあまってOPを無限ループ中という訳さ」

彼は胸ポケットの中に入れた携帯音楽プレイヤーをちらりと見せる。

「……もしかして昨日からずっと聴いてるんですか?」
「もう百回単位で聴いてるんじゃないかな」

げぇ、と私は声をあげた。
一曲5分と計算しても100回聴けば500分だ。軽く八時間以上。

「何やってるんですかあなた」
「聴くだけなら他に何をやっていてもできる」

そう云い彼は両手を上着のポケットへと突っ込んだ。

「こんな風に散歩中でも。ましてや入浴中でも食事中でも作業中でも睡眠中でも格闘中でもね」
「そこまでして聞き込んで一体なんだって云うんです?」
「別に」彼は肩をすくめて歩き続ける。「ただの自己満」

さっさと先に行ってしまった彼を追いかけて私も歩き始める。

「そんなに連続で聴いてよく飽きませんねぇ」
「さぁ、なんでだろうね?」

しかしまぁ一つの曲をずーっと聞き続けられるとは、私からしたら信じられないのだが。
というかこいつは人の話を聞きながら音楽を聴いているのか。器用な奴。

「しかしまぁ、ホントウに懐かしいなぁこれは。──学生時代を思い出すね」
「懐かしいのは結構ですけどね……なんだっていきなり散歩なんです?」
「そりゃあ、したくなかったからに決まってるだろう?」

彼はそう云って手をひらひらとさせた。

「いや、単純に珍しいと思っただけですよ」
「俺が外を歩く事がそんなに珍しいかい」
「えぇそうですよ。何ヶ月ぶりですか? 外出するの」

あー?と彼は頭を掻いて考え込む。

「1……いや、2ヶ月かな?」
「呆れた。その間なにやってるんですか」
「仕事だけど」
「よく生きていけますね──素直に感心ですよ」
「なんだ、知らないのか? いまどきは欲しいものはネットで買えば宅急便で届くし飯も出前で届けてくれるんだぞ?」

そりゃ知ってますけどね!!と私は絶叫した。
出前を電話ではなくネットで注文する時代というものが私の年代からすると異常なのだが。
というか電話でいいじゃねぇか。リアルに。

「──で、そんな引きこもりのあなたが外出しようとはこれ如何に?」
「そりゃああれだ、感傷って奴だよ」

感傷ねぇ。実にらしくない言葉だ。
遊びに誘われたからという方がまだ現実味がある。
……まぁこいつを遊びに誘うような友達は居ないと思うが。

「じゃあその心は?」

私がそう聞くと彼はんーと腕を組んで考え込んだ

「……人間は感情の生き物である、かな」
「それ……どういう意味ですか?」
「理屈と論理は違うって事」
「理解できませんが」

いくらなんでもはしょりすぎである。
もっと人類に理解可能な言語を喋って欲しいと思う。切実に。

「“人を動かすモノ”ってナンダと思う?」
「え?」いきなりそう聞かれて戸惑う私。「──そうですねぇ……」

理屈?と私が云うと、彼は手を胸の前で合わせるようなその寸前のような形を作って「惜しい」と言った。

「それは50点だな。正解は──」

そう云って彼は自分の胸を指差した。

「心……ですか?」
「そ。当たり前の話ではあるけどね」

当たり前すぎて捻った答えを云った自分が馬鹿にしか見えない。

「人は感情の生き物なんだ。あれが良い悪いこれが好い嫌いそれが善い酷い。人の行動原理は全てそこに帰結するんだよ。それはどんな人間であれだ」
「どんな人でもですか?」
「そうだよ。人の体が動くのはその脳が『いい』と、或いは『よかれと』考えているからなんだ」
「嫌なものを避けるのも、『いい』事なんですか?」
「“避けた方が”『いい』だろう?」
「あぁ、なるほど」

私の疑問にすぐさま答えてくれる。

「どんな主義や主張や信念や有り様であれ、それは当人の脳の中にある心の断面に過ぎないんだ。そして──」

ひときわ強い風が吹く。

「理屈はその心を客観的に分析した“結果”である。心が『原因』で、理屈は『結果』。因果を取り違えちゃ駄目だ」
「でも、理屈を人から聞かされれば心は動きますよね。なら結果的に人の体は理屈で動くのでは?」
「それはその理屈を主観的に心の中に組み込んだからそうなるんだ。理屈が理屈として人の中にあるのではなく、心が中心にあるのさ」

そしてなにより、と彼は云った。「理屈なんてものは瑣末な問題“なんだろう?”」

「……なんで最後を強調したんですか?」
「何故って──いちいちそんな事を考えずとも心は勝手に体を動かすからだろ」

現にこうして俺の脚は勝手に動いている……そうして彼は自身の足をパンパンと叩いた。
それがらしくないというのに。

「『心』なんてのはあなたの口から出るにしては少々詩的に過ぎますね」
「ははん、『心』の何処が誌的な言葉なんだよ」

そう嘯いて彼は笑い声を上げた。

「感傷と言い換えても良いがね。心の命じるままに! ──実にくだらないな。失笑だ」

失笑された。

「じゃあ散歩なんてやめて音楽を聴くのを止めたらどうなんですか?」
「心に反抗しても無駄だ。それは体自身の欲求でもある。そして俺自身の。なんとまぁ動物的な話だろうか。吐き気を覚えたいぐらいだ」
「じゃあ吐けよ」
「残念ながら俺の心はそういう風には動かないようだよ」

そう彼はしれと云った。
こいつに心があったとしてもきっと碌でもない形をしているに違いない。

「考えても見ろよ。感傷とか心とかさ、こんなものにご大層な神聖などあると思うか?」
「ないんですか?」
「ないだろ」

そう彼は断言した。きっぱりとすっぱりと。

「感傷を喚起させる為の理屈なんざそう多くないだろ? こうして懐かしいものを見せるか、情景たっぷりな景色を想像させるか、強く訴えかけるような歌を聞かせるか……こんなものはただの“手法”だよ。お約束なんだ。こんな、ただの技術の一つで人間の心は“感動”するんだ」

それの何処が神聖なのさ、と云って彼は空に向かって腕を広げた。

「お前を泣かせるのは簡単だ。そういう手段が既に確立されている。お前はただその手段の積み重ねによって作られたモノでいとも簡単に心を震わせるだろう。……違うか?」
「──ま、否定は出来ませんけれどね」

私はため息をつく事しかできない。

「でも、そんな短絡的な事じゃあそうそう感動でも出来ないでしょう?」
「それをそうと解らないように装うのがそういうものなのさ。どの道、その理屈を得る前に人は心が勝手に動くものだ

そうだ、と彼は云った。

「お前の心は自由にして感動を得るんじゃない。人として常識的な範囲内でしか心は動けないんだよ。……こんな自由もへったくれもない心など神がかってすらいないな」
「心が自由じゃないねぇ──結構、自由なものだと思いますけど?」
「宇宙人の恋愛に感情移入できるのかお前は」私はふと考えた。グロテスクな宇宙人が手を取り合って見つめ合っている。
「デキマセンデシタ」

ほらな、と彼は笑った。

「人間は理解できる言語しか“理解できない”ように、心ですら理解できるものしか“理解できない”んだよ」
「はぁ……」

私は間抜けな顔をして話を聞くことしか出来ない。

「人の心は“自由にして感動を得る”んじゃない。常に常識的な範囲内でしか“感動しない”んだ。なんと矮小で凝り固まった自我よ。お約束でしか感動できない心にご大層な発展があるとは思えないね」

吐き捨てるように彼は云う。

「そういう意味で言えば、人の心なんてものは実に“機械的”じゃないか。感情とはただの機械でしかないのさ。『これこれここをこうしてこうすれば心は感動する』『あれこれそれをどう刺激すれば心はああ感じる』などなど……という訳だよ。この──感情と、機械の生物が」

轟、音を立てて脇を電車が通り過ぎた。

「肉体から創発した自我はしかし、それでも肉体から独立して自由な存在ではありえない。この生物機械である身体から生まれた心は、それ故にまた機械でしかない。……走光性と同じさ。必要なものに向かって移動し害なるものから逃避するそれは微生物となんら変わりない機械的反応なんだ」

『心』ってのは“走性”なんだよ──彼は苦い顔をしてそう口にした。

「微生物から続くそれは本能に過ぎない。心の由来は微生物にまで遡れるという訳さ」
「……そうまでして心を貶しますか」
「貶しているつもりなんかないよ。──褒めているつもりもないがね」

彼は肩をすくませてだんだんと暗くなる道を歩き続ける。
私もその後について並木道の下を行く。
途中で塾帰りの小学生たちとすれ違った。彼らの無邪気な笑い声が響く。

「子供たちも機械なのかな?」わたしがそう呟く。
「子供も機械だ。創発の途上、自我形成の中途。どの道、彼らの心が辿り着く場所など高が知れている」
「あの中からノーベル賞を受賞するような人が生まれたとしても?」
「ノーベル賞をとる心がどう優れているという訳でもないだろ。天才も凡人もみんな機械さ。その優劣は機械的な意味での優劣に過ぎない。その機械が持つ知識か、技能か、発想か……その違いさ」

あぁ全く、そう云って彼はその耳からイヤホンを取り外した。

「いつになればこの“心”から俺は独立出来るのだろうね」
「独立したいんですか?」
「独立したくないのか?」

逆にそう聞き、彼は動き続ける音楽プレイヤーを手に持ちそれを通して空を見上げた。

「この心から自由に成れれば、俺は何処までもいけるだろう。──そうは想わないか?」
「それは不可能命題ですよ。不可能だからそんなことが云えるんです」
「俺は自由になりたいかどうか聞いてるんだがな」

そう云って彼は私を振り向いた。
その眼が私の目をじっくりと見つめ返す。

「私は……別にこの心から脱却したいとは思いませんよ」

そうか、と彼は呟く。

「俺は脱却したいよ。こんな感傷(モノ)は……」

そう云って彼は音楽プレイヤーを握り締めた。

「ただの無駄さ」

無い方がよっぽどマシだ。

──よっぽど、マシさ。

この、感情と、機械の生物が。

こんな感傷で時間を浪費して……ホントウに。

馬鹿みたいだ。

それでもそうしたいと思うこの心が。

本当に。

──本当に、馬鹿みたいだ。


雑記断片 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
 

― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
 「思い立ったが吉日」
 「継続は力なり」

口癖/
 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
『他ならぬ、他人の為に』
『それはつまり、因果のように』
『世はなべて殊もなく』
コミックス・コード
『爆発的情報進化 Meme Explosion』
『Fight and Flight』
『重力の中』
『ロストリモート』
『あんちのみ?』
『日常机上』
『頭蓋骨と頭痛の間で益体も無い話』
『都市なる伝説 Netlore』
『感情と、機械の生物 nothing but ism』
『“特別”もいずれ』
『Letter』
『細胞奴隷』
『死ヲ希シ慮ル事念ズ』
『All are the gradations』
『オール オア ナッシング』
『いつかの心を 忘れる心 for me any more』
『一般的に一般人は一般的に云って一般以下である』
『引き篭もりの愚者』
『人災について』
『世界の片隅で愚痴を云ったら自分に返ってくるって意外と真理』
『危機感欠如認知バイアス Somebody else's problem acknowledgment bias』
『命の重さ──言葉の重さ Weight the mind』
『Fortuna amicos conciliat, inopia amicos probat. 』
『せめて人間らしく』
『傾ぐ世界 Poltergeist』
『自殺考察(1) 墜落追悼』


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