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『三点形式差異現物』

「久しぶりに自分の顔のデッサンをして見たんだがね。どうにもやはり不慣れでたまらん」

「あぁ、それはお疲れ様です」

「デッサンってのはやはり疲れるな。実物そのものを摸写する事の異常さよ。やってみれば解るが、写実的にモノを書き写そうとすると途端に描いている絵が違和感の塊のように思える。絵で忠実に現実を再現するのはまともな所業じゃないんだ」

「そんなもんですかね?」

「そんなもんさ。ただそれにしてもさ、人間ってのは生きているうちにどれだけデッサンをするんだろうな?」

「は? ……さぁ、人によりけりなんじゃないですか? 美術家は沢山デッサンするんでしょうし、一般人はあまりやる機会はないでしょう」

「美術者はそれが仕事であり所業なのだから兎も角、普通の人間ってのはどれだけデッサンする機会があるのだろうな? それを思うと少し不思議な気持ちになる。人間ってのは一体、“いつから”デッサンしようなどと思い立ったのか──さ」

「いつから──とな?」

「考えても見よう、考えても見てみよう。まともな娯楽が無い、生きるだけで精一杯の原始時代。その中で産まれたばかりの人類は一体何を描いたと思う?」

「そりゃまぁ──壁画とか?」

「そうだ。彼らはラスコー洞窟に代表されるような壁画を絵として残した。でもあれはどうだ? 思い返してみろ、あの絵は“写実的”だったか?」

「……いいえ、そういう時代の絵は得てして棒人間のような記号論的絵画です」

「その通り。写実レベルでの高低はあれ、多くの場合人類初期の壁画は記号論的だ。棒人間で、その多寡はあれどいわゆる特徴を捉えたに過ぎないレベルでの記号的描写だ。初期人類は、その“眼前にある世界”そのものを写実的に描写する事無しに、描画を始めたんだ。──それは、少し奇妙な話じゃないか?」

「奇妙……どうしてですか?」

「だって、目の前にあるもの、或いは記憶の中の絵を出来るだけ再現して写実的に描けば良いのに、何故特徴を捉えただけの記号的な絵を描いたんだ? そうは思わないか?」

「ただ簡単なほうを選んだだけでしょう。デッサンしても記号を描いても、それによって伝えられる情報が同一ならば、簡単な方を描くのが人間ですよ」

「なるほどね。まぁその通りさ。……でも更に考えてみるとさ、ちょっと奇妙に思われる。人間は、人類は、“一体いつ頃から写実的なデッサンをし始めた”のだと思う?」

「はぁ? それこそ絵を描き始めた瞬間にはデッサンもし始めたんじゃないですか?」

「さぁてどうかな。俺にはそうは思われないんだ。初期人類は、絵を描き始めた瞬間にデッサンもしようとは絶対に思わなかったのではないか、とね」

「どうしてそういえるんですか?」

「現在の人類にも言えることだが、初期人類にも言えることだ。それは、デッサンをする能力を動物は保持しちゃいないからだ。動物は常に記号的に世界を把握している。人間だって同様だ。初期人類も結局のところ世界を記号的にしか把握できない。小さな差異を認識する能力はあっても、“小さな差異を再現する能力”は人間は持ってないんだ」

「ちょっと意味が解らないんですが」

「人間が情報を伝達しようとして絵を描き始めたとき、その絵は確実に記号的だったと思われる。それで十分だったという話もあるし、それしか出来なかったとも云える。絵が上手い人間も勿論居たことだろう。しかし、それでもやはり彼らはデッサンをしていたわけではないと思う」

「この心は?」

「デッサンは文化なんだ。後発的創造性。記号論を突き詰めていった先に現実を忠実に再現するという写実性を見つける。それを意識的におこなってこそ、初めて絵は写実性を与えられ、ただの記号から現実へと脱するんだ」

「はぁ、まぁデッサンは文化ってのは解りますけどね……」

「子供はデッサンをしない。餓鬼に紙と鉛筆を与えて一生待っていても、たぶん奴らは一生デッサンというものを理解しないよ。何故だと思う?」

「──文化、だからですか?」

「そうだ。デッサンという文化を教えられて初めて、子供はデッサンというものを“行う事ができる”。デッサンという創造性を知らなければ、一生記号というものしか人間は描けないんだよ。その絵の上手さはあれどね」

「どうでしょうかね、それは定義の問題で概念の錯誤のような気もしますけど」

「じゃあさ、人間は一体いつ“デッサンするという文化”を手に入れたのだと思う?」

「は? うーん、目の前のものを出来る限り正確に描こうとした瞬間、じゃないんですか?」

「なら、そう思い立った『理由』はなんだと思う?」

「え? さぁ、描きたくなったからじゃないですか?」

「それはね、“記号論的にでも上手い絵を描く事ができる人間の絵を見て、羨ましく思った絵が下手な人間が本気で目の前のものを忠実に描き起こそうとした瞬間”だよ」

「────つまり、テキトーに描いてもそこそこ上手い人間の絵を見て凹んだ人間が、初めてデッサンをしたんですか? うそ臭くないですか?」

「でも、それ以外に“意識的にデッサンを始める理由が無い”んだよ。ただ情報を伝えるだけならばどんなに上手くてもその絵は記号だし、ただ意味も無く描いた絵でもそれが無目的であるならばどんなに上手くてもまた同様に記号でしかない。“意識的且つ目的的に上手い絵を描こうとした瞬間”、それが『デッサン』になったんだ」

「…………」

「たった一人の人間がいたとして、その人間がどんなに上手い絵を描いたとしてもそれがただ“絵を描く”という理由で描かれたものでしかないならば、それはデッサンではない。彼はただ1人で『デッサンするという文化』を手に入れられるだろうか? 彼に、そこまでの強烈な写実的欲求は生まれ得るのだろうか? そこまでの強固な負の感情を抱けるだろうか? いいや無い」

「…………なんかこじ付けで胡散臭い話ですねぇ」

「だって口から出任せだもの」

「素晴らしい嘘八百ですね」

「そもそも描きたかった話とは全然違う話になっちゃったんだけどな」

「あぁ、またあさっての方向に行ったのですか……物好きですね」

「面白けりゃなんでもいいんだよ。主に俺が」

「主に、お前しか楽しめないだろうけどな」


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― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
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 「継続は力なり」

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 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
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