スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 /
『偽装幻感覚 例えばある虫の話』

※微グロ注意。主に虫とか。


ぼんやりと周囲を眺める。
「それで、“ソレ”はどんな特徴があるの?」
大学によくある狭苦しい教授部屋。周囲に資料と言う名の本や紙束が本棚の中にぎゅうぎゅうに押し込まれている。足の踏み場は机へと続く一本道しかないような状況だ。
「──特徴、というと? 例えばどんな」
私はその中で無理やりに置かれた折り畳み型の椅子に腰掛けている。
「例えば……そうね、習性というか、生態というか──特に“発生しやすい時期”とかあれば聞きたいのだけれど」
話し相手はかろうじて机の上に築かれた本のビル群の間から顔を覗かせている。20代後半、或いは多少若く見える30代前半と言ったところ、いわゆる知的な女性的な『女性』。あつらえたようにメガネまでかけているが、多少身なりには気をつけているのか、野暮ったい感じは全くしない。
「時期……ですか。年中出てきてますが、しいて云えばこの時期は多少多くなる気がしますね」
「このジメジメムシムシした時期に? ま、それは確かに”らしい”けれどね」
私の方に顔も向けず、黙々と作業をしつつ質問だけを繰り返す。
「じゃあ好きな場所とかは?」
「それも特には。まぁ水場とか不衛生な場所、あるいは──強いて云えば石の下とかは、少し多いような気がします」
「ははん、それはますます“らしい”な」
そう云って鼻を鳴らす女性。
「飛んで火にいる夏の蟲っと……そういや極端に寒いところとかはどうなんだ? 雪国に行ったことは?」
それによほど興味があるのかやっと顔を上げて私の顔を見た。メガネを押し上げる仕草が堂に入っている。
「さぁ、あいにくと旅行はしないので。雪国云った事もないので何とも云えません。たぶん、あまり変わらないと思いますけど」
「私は『予想』じゃなくて『事実』が知りたいんだけれどね──。ま、解らないんじゃしょうがないか」
彼女はそう云ってここらで休憩とばかりにタバコに火をつけた。中南海。マニアックなタバコのような気もするが如何せん私は喫煙家ではないのでよく解らない。
味も知らない。
「ふぅ……ん──おっ」彼女は紫煙を吐きそこではたと気がついたようにタバコの先を見た。「そうそう、そいつ、火は大丈夫なのかい? 流石に高温では死ぬんじゃないのか?」
私は焚き火のようなイメージを頭に思い浮かべる。
「火は……確かに避けます。でも、あまり近づきたくないってだけな気もします」
「死なないの?」
「さぁ、解りません」
ふぅん、そう云って彼女はまた紫煙を吐いた。
「その虫面白いネェ……いや、本当に虫なのかな。まぁいいや、是非とも研究してみたいナァ」
「してみればいいじゃないですか」
横目で私の顔を流し見る。その目にはなんの感情もこもっては居ない。
「んじゃ、そいつは何処にでもいるもんなの? どんな場所でも湧いて出てくる?」
「基本的には。ただ密閉空間の中では見かけません。たぶん入れないんじゃないですか」
「普通に考えりゃそりゃそうだがね」
とんとん、と机を指で叩く。そろそろ本題だ、とても云うかのように。
「じゃ、この部屋の中にもその“虫”はいるの?」

「はい」

私は顔を上げ、彼女の顔を見た。
その顔に張り付いている、一匹の“蟲”。
蠕動を繰り返し、彼女の顔の上を這い回る“ソレ”。

「そいつは今何処にいて……何匹ぐらい居るんだい?」

そうして、彼女は蟲を顔に貼り付けたままそう聞いてきた。私は目を逸らし、一つ息をつく。
「この部屋には今、三匹の蟲が居ます。……そこと、そこと──」

私は右手奥の本棚の上の部分と、床の一部を指差し──

「──あなたの顔に、一匹」

彼女の顔を指差した。蠕動する一匹の蟲を。
「へぇ」
興味深そうな息を吐き出し、彼女は自分の顔を右手で軽く撫でまわした。ほほの部分に移動した蟲にも触れる。
「私の顔に虫が一匹ネェ……どう? 取れた?」
「…………いいえ」
未だにその綺麗な顔には蟲がビクビクと張り付いたままだ。
「簡単には取れない?」
彼女はその蟲を全く無視して、私にそう聞いてくる。
「──はい。吸盤かなんかで付いているみたいなので……」
「うへぇ、そりゃあいやだ」巫山戯た様な声を上げて大げさにリアクションをとる。「あなた、何とかできないの?」
「……私には、どうしようも──」
「そ、ま、それじゃしょうがないわね」
特に諦めた風でもなく、彼女は肩をすくめた。
「あなたが“ソレ”を見えるようになったきっかけはなんだったの?」
「──小学生の頃、一週間高熱を出して……生死をさまよって──それからです。見えるようになったのは」
ゾロゾロと這い回る蟲を見るようになったのは。
そいつは何処にでも現れ、いつでも動き回り、あらゆる物の上を這い回った。
「あーで、そいつ、どんな形態をしてるんだっけ?」
「──ナメクジのような」ナメクジを縦に潰して、触角を取ったような感じ。色味はソレをもっと濃くした感じで、カタツムリの貝殻のような色と模様と言ったら解りやすいだろうか。
表面は意外と硬く、たぶんクラゲっぽい弾力はあると思う(コリコリした感じ、みたいな
吸盤か何かで物体の表面に張り付いているのか、基本的には取ろうと思っても取れるようなものじゃない。その癖移動速度はゴキブリ程度に速いのだ。
「それはまた」グロイねぇ、と呟くのが聞こえた。
「しかもそいつ、通った後にはヌメヌメした粘液を残していくんだろう? 最悪じゃないか」
言葉とは裏腹に、彼女はまるで他人事のようにそう云った。
「……そうですね」
どうせ解るわけがないのだ。誰にも解りはしないのだ。
その蟲が通った後のものを食べなければならないという事の苦痛を。その蟲が這い回ったものを手に取り、服に着、布団で寝なければならないという事の本当の辛さを。
他人には誰一人として見えない蟲の所為で私は手袋も手放せない生活を余儀なくされている。
兎に角すきま一つ無い部屋を確保し、蟲が付いていない食料を用意し、そうしてやっと安心して生活が出来るようになるのだ。この歳になってようやく。
……解るか。
そのナメクジのような蟲を知らず食ってしまったときの気持ちが。
どこもかしこも遠慮なく蟲が這い回った後の部屋を利用する事の気持ちが。
それを嫌がるだけで怒られ、阻害された子供時代の記憶。
解るわけが無い。
「で。そいつ、どんな味がするの?」
胃が、無意識に裏返りそうになる。
無遠慮に、そんな事を聞いてくるものなのか。こいつは、どこか可笑しいんじゃないか。
──別に構わない。どっか可笑しいから私はこいつにこんな話をする気になったのだ。構う事はない。どうせコレきりの会話だ。
そうして吐き出したかったんじゃないのか。
……ここまで無遠慮に、そんな事を聞かれるとは思って居なかったけれど
「──味は、苦いです。途轍もなく。そいつが残した粘液も、」
「ふーん、悪いね、変なこと聞いて」それでも全く悪びれた様子はない。
「つー事は幻味もあるのか。いや、もう此処まで現実に密着すると幻視だけなわきゃないか。……しかし凄いね。あんたその他は全然まともなんだろう?」
ため息をつく。まともかどうかなんて聞かれても、もう私には分かりようもないことなのに
「さぁ、その蟲が見える以外では、特に特殊な経験はありませんよ」
「つまり、その虫だけがリアルに存在しているように知覚されるだけで、それ以外の幻覚体験はない訳だ。面白いね、そう云う事もあるんだ」
「さぁ、蟻走感とかあるぐらいですし、別に珍しくもないんじゃないですか?」
「よく知ってるねぇ、蟻走感なんて。──でもまぁいいや、そういうのとはまったく違うなぁ。ああいうのはほら、妄想だからさ」
私にはその違いがわからない。
「妄想と幻覚の違いって何ですか」
「妄想は思い込み。それが高じて幻を見ることもあるけどね。──で、幻覚の方は思い込みとか関係なく見る幻。しかも四六時中意味もなく蟲を見るなんて幻覚、聞いた事もないね」
「それはどうも」
私は、まだ霊感があったほうがマシだと思う。可笑しな意味もない蟲が見えるよりはまだマシだ。
科学的に幽霊など、ありえないのだけれど。
幽霊が触った後のものなら食べられそうだが、蟲は駄目だ。
「いいや、でもま、その脳の構造がわかればまた面白い研究が出来そうだねぇ」
そう云ってカカと笑った。全く、やはり何処まで行っても──他人事の世界なのだ。
私は立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「あ」と、折角なので云っておこうと思って彼女の方を振り返る。
「ん、どうした?」
なにかあったのかという顔でこちらを見る。
「まだ──」
そして私は自分の顔を指差す。ジュルジュルと、ベトベトと。

「顔に蟲、ついてますよ。べったりと」

右半分の顔を覆い隠すように張り付いた蟲の存在を教える。

彼女はきょとんとした顔をする。その顔の半分以上は、蟲によって隠れているけれど。
そう云って私は部屋を後にした。存在しないという事は素晴らしい事だ。

何も見えないという事は幸せな事だ。

もはやそんな事で禍福を語ったところで──それこそ幻覚のようにどうでもいい事でしかないのだけれど。

──この蟲の存在は、私しか知らないのだから。

みんながその蟲を知らない間に喰ってしまうのを、ただ眺めるだけだ。


魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
コメント

コメントする?












 秘密コメント

トラックバック
トラックバックURL
 

― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
 「思い立ったが吉日」
 「継続は力なり」

口癖/
 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
『他ならぬ、他人の為に』
『それはつまり、因果のように』
『世はなべて殊もなく』
コミックス・コード
『爆発的情報進化 Meme Explosion』
『Fight and Flight』
『重力の中』
『ロストリモート』
『あんちのみ?』
『日常机上』
『頭蓋骨と頭痛の間で益体も無い話』
『都市なる伝説 Netlore』
『感情と、機械の生物 nothing but ism』
『“特別”もいずれ』
『Letter』
『細胞奴隷』
『死ヲ希シ慮ル事念ズ』
『All are the gradations』
『オール オア ナッシング』
『いつかの心を 忘れる心 for me any more』
『一般的に一般人は一般的に云って一般以下である』
『引き篭もりの愚者』
『人災について』
『世界の片隅で愚痴を云ったら自分に返ってくるって意外と真理』
『危機感欠如認知バイアス Somebody else's problem acknowledgment bias』
『命の重さ──言葉の重さ Weight the mind』
『Fortuna amicos conciliat, inopia amicos probat. 』
『せめて人間らしく』
『傾ぐ世界 Poltergeist』
『自殺考察(1) 墜落追悼』


◆学術系
国民が知らない反日の実態
FreeJapan.TV (国益最前線)
マンガ論争勃発-継続中
1ドットの声にもギガバイトの魂
Open ブログ
泉の波立ち
スタンダード 反社会学講座
哲学的な何か、あと科学とか
Me pudet imprudentiae meae.
博士の独り言
IT & Economics 池田信夫 blog
日本のここがおかしい
日本経済をボロボロにする人々
rarity0
Zopeジャンキー日記
古代ギリシア哲学と現代倫理学のページ
独白日誌
山下太郎のラテン語入門
Sankei Web
ダイヤモンド・オンライン(Diamond Online)
JAXA 宇宙航空研究開発機構
◆サブカル
GIGAZINE
分裂勘違い君劇場
破壊屋
チェキ空ブログ
制作のしおり
ハックルベリーに会いに行く
死ぬほど洒落に
島国大和のド畜生
日常ごっこ
SPOTWRITE
無人島日記
ニートの海外就職日記
As a Futurist…
G.A.W.
地を這う難破船
オタク商品研究所plus
end-point 科学に佇む心と体
conflict error
Technobahn
痛いニュース(ノ∀`)
◆データベース系
報道監視まとめWIKI
放送されない政治家の思想と実績
エロゲ販売規制問題まとめwiki
子供の犯罪被害データベース
政治ブログランキング
無法地帯
ウェブ石碑
◆読書系
幻影の書庫
ジャックハマー
taipeimonochrome ミステリっぽい本とプログレっぽい音樂
ミームの死骸を待ちながら
隠れ蓑~penseur~
◆芸術系
檸檬通り
僕のアベノライフ
◆写真系
JUNK GARDEN
染谷翔の自転車世界一周ワロスw
◆音楽系
kaiの判別式
mosaik - electronic music
19's Sound Factory
Aliced Twilightz
Iemitsu.
◆アニメ系
Other voices-遠い声-
フジテレビ“ノイタミナ” TVアニメ 東のエデン
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
化物語
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。