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『非完全頭脳の憂鬱 Heuristically programmed ALgorithmic computer』

一口タバコを吹かすと、目の前のPCのディスプレイに浮かんだチャット風の画面に文字が読み込まれた。

春来:そのタバコなに? 美味しいの?

煙を天井に吐き出しながらパソコンに備え付けられたWEBカメラを見た。

俺:あらすかとか云う奴。別に普通

俺は特に考えることなく何気ない返事を打ち込んだ。

俺:タバコ興味あるのか?

春来:別にねーし。そんなもん身体に悪いだけじゃん。なんでそんなもん吸うの?

ふと考えてみる。俺は一体いつからタバコを吸うようになったんだっけ。大学に入ってから解禁したんだっけ。

俺:まぁただの中毒だな。吸わなきゃならん理由など無い

春来:緩慢な自殺って奴? そんなに死は怖くない?

俺:緩やかな自死は死と連結しない概念だ。人間ってのは多かれ少なかれ自らの行いによって死に接近している。多少の毒を食らう事と、普通の飯を食うことになんの違いも無い

これまた特に考えもせずに適当な事を書き込むんだ。

春来:つまり長期的な視点を持てないっつー事? 馬鹿なのか?

俺:他人事なのさ

春来:他ならぬ自分の事なのに

俺:だって俺は今苦痛を感じてないもの。負の感情を刺激しない事はすべからく他人事さ

春来:自己中なんだな

俺:他者中心の人間が居るならば見て見たいものだ

俺はまた紫煙を吐き出した。チャット風の画面は何かを云いたそうにしながらそれでも沈黙している。さて、こいつは画面の向こうで何を考えているのやら。

こいつはこういう事が苦手なのだ。ま、苦手といえば、まだまだ色んな事が苦手なのであろうが。

春来:……まぁいいさ。それでなんだっけ、不完全頭脳? その話

俺:“不”完全頭脳じゃない。“非”完全頭脳だ

春来:あーで、なんでそれが“非完全”頭脳なのさ。それって単語的に可笑しいだろ

俺:さて、どこから説明したものかな──もし世界に完全頭脳があって、そいつの判断によって世界が決定されるとするなら……その頭脳は“常に正しい決断”を下せるものか?

春来:下せねーのか?

俺:無理さ。単一の頭脳は単一の価値観しか持たない。単一の価値判断に従うという事は、その他の価値を疎かにする。この世界を動かして行く上で、間違う事の無い単一の頭脳など存在しない

春来:つまり、“不”完全なんだろ?

俺:単一の“完全頭脳”が存在したとしても、そいつは完璧じゃない。世界の、この人類の、複雑な階層と思想を持つモノ達を満足させられるような価値判断は行えないのさ。なぜならばそいつは『一』であるが故に複雑多様な人類の価値観に添うことは出来ないからだ

春来;それがどう“非”完全頭脳って言葉になるんだ?

俺:一つで十全になる事は出来ない。完全頭脳と言う思想そのものが不完全なんだ。だから我々は完全頭脳という前提を“否定する”。それがつまり“非”完全頭脳という概念の出発点だ

春来:ふーん……で、そいつは一体どういう概念なんだ?

俺:単一では不完全である事は明白なのだから、その“不完全な頭脳”を複数台用意すればいいだけだ。で、それらの間で意見を対立させたあと、意思決定をすり合わせて行う。これだけで思想的には大分健全になる。不完全である事を前提にしているから“非完全”頭脳なんだ

春来:すり合わせるって……ほぼ同じ頭脳……っつーかまぁこの場合はPCなんだろうけどさ。そうすると意見の対立って起こるのか?

俺:勿論、全くの同一な頭脳では幾らやったところで判断は一致するだろう。だから意図的に誤差を生み出すんだ。そのコンピューターの価値判断にね。──あぁ、当然、各頭脳において入力する情報そのものに違いは与えない。それは価値判断に対する重大な違反だからな

春来:同じ情報を入力したら同じ頭脳になるんじゃないの?

俺:情報の入力に意図的にタイムラグを与える。例えば『思想・哲学・歴史・科学・政治・経済……etc』完全頭脳を目指す以上、入力する情報は莫大な量になるのだが、それらを入力する順番を各頭脳においてずらす。たったこれだけでそれらの頭脳内部において、価値判断に微妙な誤差が生まれる

春来:ふーん、そういうもんかね……つーかさ、情報を入力するのは兎も角、ただ入れただけじゃそれってただのデータベースじゃん? ただのコンピューターが価値判断を下すようになるために必要なものってなんなの?

俺:ある一つの情報に対し、それが人類史においてなにを引き起こしたのかもセットで入力する。ただそれだけさ。あとは、情報を入力するたびにパソコンが自動的に自分の中の入力済み情報と照らし合わせ、有機的に情報を連結して行く。そうする事で、新たに与えられた情報Aに対し、今後それが何を引き起こすのかを頭脳自らが予測判断するようにする。これがコンピューターによる価値判断のプロセスだ

春来:そんなんで十分なの?

俺:それで十分だし、それ以上の最良の方法は無い。なんらかの『事象』に対し、正確に判断を下すために必要なのは“感情”ではなく過去の事実と照らし合わせて過不足なく判断する事だ。感情に流されるから人間の判断は駄目なんだよ。最良の頭脳があるとすれば、それは感情に振り回されず、事実だけを取って果断する機械のようなものに違いないのさ

春来:人間はそれでいいのか?

俺:人間なんかに人間の未来は任せられないと、俺は思うがね。だからこその“非完全頭脳”だ。……さて、入力する情報にタイムラグを与える事で各頭脳において若干の誤差が生じる。それで十分だしそれ以上は必要ない。例えば過剰に宗教に肩入れするような頭脳は情報の入力が偏りすぎていて使い物にならない。情報のライムラグで若干、半歩程度宗教に近づいた頭脳は産まれるだろうが、それが誤差の限界だ

春来:特定思想に肩入れするのは過剰なのか?

俺:十分に過剰だろう。もし、あらゆる人類史や科学や哲学を入力したならば、特定思想に傾倒するような頭脳はまず持って産まれないよ。何故ならばどれかに肩入れする事それ自体が人類に大きな不利益をもたらすからだ

春来:そうかなぁ。特定思想でなくてもさ、人間ってのは多かれ少なかれ思想的な生き物じゃん。それら総ての思想から距離をとった頭脳なんて存在しうるのかな

俺:お前が具体的にどんな思想の事をいいたいのか解らないが、それでもそんな頭脳は機能しうるよ。何故ならばそれら非完全頭脳が一番最初に教えられる最も重要な“思想”が既にあるからで、その思想をねじまげるような思想を非完全頭脳は支持しないからだ

春来:ん……既に非完全頭脳には思想が埋め込まれてるって? それはなんだ?

俺:それはね──『自由であること』だよ

俺はその単語を打ったあと、窓の外をみやった。世界は今日もいつもどおりだ。

俺:人類においてもっとも重要視されるべき思想、それは『自由』だ。人間は思想的に自由であるべきだし、何をするにしても自由であるべきだ。そして何人も他者の自由を侵害してはならない。それを“非完全頭脳”は最も重視する。人間一人ひとりが自由である為に、非完全頭脳は価値判断を下すのさ

春来:自由ねぇ……若干胡散臭いな

俺:『幸福』をめざすよりは大分まともさ。人間の最終目標は幸せなんじゃなく、自由である事ただそれだけなんだからな

春来:自由であれば幸せでなくてもいい?

俺:自由であるためにはある程度の幸福な環境は必要だが、幸福そのものであれば自由なんて要らないっていうのは間違いだ。それは飼いならされたペットのように動物のような生き様さ。勿論、そう生きたいという人間を止める必要は無いがね、それこそ本人の自由だからな

春来:ふん。でさ、そうまでして非完全頭脳を作って、あんたらなにがしたい訳?

俺:勿論、この人間社会を管理させる。最低三台1セットで構成された非完全頭脳を用意し、それぞれにおいてそれぞれの価値判断を習得させる。そしてそられがまた高次の非完全頭脳と意見を対立させつつ判断をすり合わせる。これだけでもたいぶ今よりはマシな社会になるはずさ

春来:そりゃあ夢物語さ。第一、結局意見をすり合わせるなら既に今の人間社会でもやってんじゃん。そう違わないって

俺:全く違うさ。人間には欲が在って感情があって余計なしがらみが多い癖、その割りに知識の量なんてたかが知れてるんだ。そんなんでまともな判断が下せるのか? 俺から言わせりゃ、そんな判断能力の無い非知性体に政治なんか無理だよ。非完全頭脳よりもまともな判断が出来る人間があるってのなら是非会いたいものだ。……当然、そんなものは居やしないがね

春来:政治にそんな大量の知識が必要なんか?

俺:無い、と云う事そのものが怠慢だろう? 知識が必要ないなんて口にする事それこそが欺瞞であり詐欺だ。人間が人間を管理すべきだというその常識こそが人類に対する欺瞞だ

春来:でも、非完全頭脳そのものも、ある意味でお前らが持つ“一つの思想”に過ぎないんじゃねーのか?

俺:ソレは否定しないが、それを肯定しても直、非完全頭脳は我々と、他者とを同じ分だけ距離をとった判断を下すだろう

春来:じゃあさ、その非完全頭脳に『非完全頭脳が人間を管理すべきか?』って質問したらどう判断するんだ? 総ての思想から等距離にあるというならば、非完全頭脳が下す判断そのものも、非完全頭脳を否定する思想と等距離なんじゃないのか?

俺:非完全頭脳の思想は他のあらゆる思想から上位互換なんだよ。等距離ではあっても同じレベルじゃないんだ。優先されるべきは人間の他者の思想を取り入れたりすることではなく、ましてや侵害することでもない。非完全頭脳は常に、人類が『自由である為にのみ』判断を下す。だから、非完全頭脳を否定する人間の事を否定はしないが、それによって自身の判断を否定する事は無い。何故なら、非完全頭脳は彼らの自由を確かに侵害はしていないのだから

春来:よくわかんねーけどさ、本当にそんな自由なんてあるのか?

俺:あるさ。自由は確かにあるよ。他者を否定する事を許さないだけで、人間は常に自由足りえる

春来:信じられねーな

俺:今はまだ信じなくてもいいさ。いずれ解るときが来る。今はまだ、“お前”みたいなモノでしかないがね

春来:うるせーよ。演算能力も情報量だってまだぜんぜんたりてねーんだよ。第一情報の有機的連結すらまだ苦手なんだ。そんなんで人間社会の何が解るかってんだ

俺:解ってもらわないと俺が困るんだ。いつまでも成長しないシステムに価値はないぞ

春来:スペック足りてねーんだよッ!

ソレきり画面はなんの反応も示さなくなった。どうやら機嫌を損ねたらしい。

まぁ確かに擬似AIにしても、自身の存在を軽く否定されたらすねるものだろう。それは擬似AIとしては健全かもしれないが、非完全頭脳の先駆としては完璧に不完全だ。

感情など持ってもらっては困る。

とはいってもこうやっておれ自身と会話させる事で俺の情報を入力していくのも、ある意味では正しいは価値判断になるだろうか。つまり、おれ自身に味方する頭脳という意味で。

しかし一体何処のどいつだ。こいつにチューリング的システムを組み込んだのは。日に日に言葉使いが人間っぽくなっていくではないか。こういうのが余計だというんだ。(面白くはあるけれども

音声認識システムと発話システムを組み込めば十分にチューリングテストをクリアできそうな勢いじゃないか──まぁそんなものに興味はないのだが。

兎に角、今はまだ研究段階であり、まだまだ課題は山積みなのである。

俺はタバコを灰皿に押し付けたあと空のコーヒーカップを持って立ち上がった。

「スペックつっても……間借りさせてもらってるだけだしなー。予算、おりねーだろーなー」

そんな事をぶつくさと呟きながら、昼食を摂りに食堂へ向う。部屋の外は蝉が酷く煩かった。


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― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

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 「読書」
 「音楽鑑賞」
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 「継続は力なり」

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 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
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