スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 /
『自殺考察(1) 墜落追悼』


「────非常に残念な事がありました」

担任はいつもより早く教室にやってくると、皆を席に着かせそんな言葉を口にした。
ここまで真剣な表情の担任は、ついぞ見たことがなかった。

……残念な事とはなんだろう? 僕は担任の口の辺りを眺めながら、ぼんやりとそう思った。
世界が滅ぶとか、だろうか。

「2年4組の……君達と同い年の──名前は伏せるが、1人の男子が昨日の夜、この学校の屋上から飛び降りて──死にました」

なるほど確かにそれは残念な事だろう。この学校にとっては。
そしてやはり、それは自分にとってどうでもいい事だった。

世の中はどうでもいい事で溢れている。

しかし──飛び降りたという事は、自殺、だろうか。

自殺とは……なんだろうか。

「遺書の類はなかったらしい。いじめの事実もなかったという話で──」

いじめはなかった、か。学校側の言い分など、今日日信じる学生がいるとも思えないが──

こう云っては何だが、そんな事は誰にも解りはしないのだ。
名前がわからないので仮にその男子高校生のことを“彼”としておこう。

その彼がどんな事にいじめを感じ、阻害を感じ、苦しんでいたのかなど、誰にも解りはしない。誰にもなにも、断言は出来ない。

それに遺書などなくても、彼の10数年の人生そのものが既にそいつの遺書のようなものだ、と僕は思う。

彼の人生をつぶさに調べ、観察し、考察すれば、彼の自死の理由など、紙に書かれていなくてもわかるというものだ。

「いずれみんなのところにも、事情を聞きに行くことがあるかもしれないが──」

──逆に言えば。

遺書を書くという事は自分の人生の一部を無理やり削り取って、人に説明するという事だ。自分はこれこれこういう理由によって、死に至ります、とね。
それは酷く虚しい行為に思えた。だって、俺の人生の終焉が、原稿用紙数枚分でしかない言葉によって結論付けられるのだ。それは、どうにも、承服しかねると、思う。

俺に興味がない奴に俺の死の理由を説明してやる義理はない。

知りたければ俺のことを調べろ。興味がないなら理由なんか聞くな……と、僕はそう思う。彼もそう思った、のだろうか。
そんなこと知りもしないけれど──

こんな風に考えるのは、自分が餓鬼だからなんだろうか。

それとも、綺麗に綴られた“詩”のような遺書を以って、自分の“死”とするという考え方も出来るかもしれないが。
……それは、下らない自己満足でしかないように思われた。

──そうか。

──だから、もし、自己満足のために遺書を残すのであれば。ソレは確かに遺書を残すに足る理由なのかも知れない。
遺書を読んだ人間が必要以上に悲しめば、苦痛に思えば、感謝をすれば、自分の事を想って、自分の為に涙を流してくれると、夢想できれば。そんな自己満足が。

親族も他人も周囲も何もかも一切合財を巻き込んで、自分の自己満足に付き合わせたいのかも知れない。
それは実にもっともらしく、人間らしく、迷惑な話だと思う。

迷惑を残す──それで少しでも“自分そのものを”遺す、という事か。

「だからせめて、一分間の間だけ、彼に対し、黙祷をささげて欲しいと思う」
担任はそう云って教室全体を見回した。

疑問に思う。何故、そんな事をしなければならないのか。

「じゃあ、黙祷、始めッ」
壇上の担任は目を瞑り、下を向いた。皆も同じようにそれに倣う。
それを確認した僕は、遅ればせながら目を閉じ、俯いた。

──みなは一体、この時間、何を考えているのだろうか。
中には真面目に黙祷している奴もいるだろう、不真面目な事を考えている奴もいるだろう。
それが普通なのだ。そうでなければ可笑しい。それが僕の人間観だ。

それとも、自分が可笑しいのだろうか。

だが……黙祷するといっても、『名前も知らない“彼”』に対し、いったい何を祈ればいいのだろうか。

それは、赤の他人だ。だってそれは……赤の他人なのだ。

これが知っている奴なら大分話は違うのだろう。
そいつの顔を思い浮かべ、名前を思い浮かべ、言葉を思い出しながら、例え浅い縁だったとしても、それでも多少の冥福は祈る事ができる。

だって僕は、そいつを知っているから。

でも、じゃあ、知らない人間の、それも自殺に対し、僕は何を想えばいいのだろうか。なにを想像してあげればいいのだろうか。

解らない。想像もつかない。

──これが想像力の欠如、という奴だろうか。

例えばじゃあ、彼が死んだ理由がわかれば、どうだろう?
いじめか、或いは勉強の悩みか。なにが辛かったのかも知らないし、なにに絶望していたのかもしれない。でもそれを遺書で知れば、もしかしたら、それを投影して、僕は彼に対し明確に祈りをささげられたのかもしれない。

……なんて云ったら。遺書というものは、生き残っている人間の我儘であるのかも知れないな、と思えた。

面倒なのだ、要するに。

僕は彼のことを理解するつもりなどないし、その為に時間を割くつもりもない。
手っ取り早く、『お前の死のプロフィール』を見せてくれと、そう願っているのかも。

故に遺書を残さなかった彼のそれは、理解に対する拒絶とも受け取れた。

ただ好奇心を満たす為だけの興味になどに、自分の死の理由を明かす理由はないと。
それは強い意志の表れだったのだろうか。

そして、自分の親に対してすら、彼はそう思ってのだろうか。そこまでの拒絶を。

────解らない。
結局、今此処で僕が何を考えたところで、彼が何を考えたのか、その本当のところなど解りはしないのだ。遺書がないのは、それこそが自己満足のためか、彼の拒絶なのか、はたまなた、意味などないのか。

解りはしない。

同様に、彼が一体何を考えて屋上から飛んだのかなど、解りはしない。
どれだけの苦悩を内に秘め、どれだけの苦痛を世界に感じていたのか、どれほどの絶望を手にしていたのか。

死にたがる理由など……自分にはまだ良く解らなかった。

こう云ってはなんだが、この世の中という奴は真面目にだけ生きるには少々辛い所だ。
正しく生きる事は否定しないし、それこそ心性として賞賛されるべきではあるが、しかしとて、そう生きれば全てが万事上手く行くという訳でもないのだ。

真面目に考える人間が、結局は多く働かされるようになる、という側面は否定できないだろう。
真に目に訴えれば、総ての人間が真面目になってくれる、という訳でもないだろう。

正直で、真面目で、責任感が強い人ほど、割を食う可能性は高くなるだろう。
よしんばそうとは言い切れずとも、そのストレスは常人には計り知れないものだ。

結局、みんな何処か不真面目に生きているし、それが楽な生き方であると自覚しているはずなんだ。
そういう風に生きられない、本当に真面目腐った人間から──世界に見切りをつけていってしまうのかもしれない。

不正から目を逸らせない、真っ正直な人間にとって、この世界はどれほど、醜く歪んで映るのだろう。

そういう自分を変える事が出来ず、かといって世界も変えられなかった人たちが次々に死んでいくのか。彼も、その中の一人だったのだろうか──

────もし

もし、死ぬ前に話が出来たならば。

その辺の話を、じっくりとしてみたかったと、そう思った。

「……──はい。黙祷おわり。みんなありがとう」

そう云って担任は顔を上げた。とたん、教室に小さなざわめきが戻る。

この一分間の間に、世界は変わっただろうか。

皆は、なにを想ったのだろうか。

「それじゃあ今日の連絡だが……まずはこのプリントを回してくれ」
担任の先生が持ってきた用紙を前の列にいる生徒に順次手渡して行く。

それだけで、全てが日常に回帰して行くようだった。
ざわめきが又一段と大きくなり、普段のボリュームへと戻っていく。

あぁそうか──とぼんやり想った。


関係のないクラスの生徒は……葬式には呼ばれないのか──と。


   墜落追悼 ── 完


魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
コメント

コメントする?












 秘密コメント

トラックバック
トラックバックURL
 

― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
 「思い立ったが吉日」
 「継続は力なり」

口癖/
 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
『他ならぬ、他人の為に』
『それはつまり、因果のように』
『世はなべて殊もなく』
コミックス・コード
『爆発的情報進化 Meme Explosion』
『Fight and Flight』
『重力の中』
『ロストリモート』
『あんちのみ?』
『日常机上』
『頭蓋骨と頭痛の間で益体も無い話』
『都市なる伝説 Netlore』
『感情と、機械の生物 nothing but ism』
『“特別”もいずれ』
『Letter』
『細胞奴隷』
『死ヲ希シ慮ル事念ズ』
『All are the gradations』
『オール オア ナッシング』
『いつかの心を 忘れる心 for me any more』
『一般的に一般人は一般的に云って一般以下である』
『引き篭もりの愚者』
『人災について』
『世界の片隅で愚痴を云ったら自分に返ってくるって意外と真理』
『危機感欠如認知バイアス Somebody else's problem acknowledgment bias』
『命の重さ──言葉の重さ Weight the mind』
『Fortuna amicos conciliat, inopia amicos probat. 』
『せめて人間らしく』
『傾ぐ世界 Poltergeist』
『自殺考察(1) 墜落追悼』


◆学術系
国民が知らない反日の実態
FreeJapan.TV (国益最前線)
マンガ論争勃発-継続中
1ドットの声にもギガバイトの魂
Open ブログ
泉の波立ち
スタンダード 反社会学講座
哲学的な何か、あと科学とか
Me pudet imprudentiae meae.
博士の独り言
IT & Economics 池田信夫 blog
日本のここがおかしい
日本経済をボロボロにする人々
rarity0
Zopeジャンキー日記
古代ギリシア哲学と現代倫理学のページ
独白日誌
山下太郎のラテン語入門
Sankei Web
ダイヤモンド・オンライン(Diamond Online)
JAXA 宇宙航空研究開発機構
◆サブカル
GIGAZINE
分裂勘違い君劇場
破壊屋
チェキ空ブログ
制作のしおり
ハックルベリーに会いに行く
死ぬほど洒落に
島国大和のド畜生
日常ごっこ
SPOTWRITE
無人島日記
ニートの海外就職日記
As a Futurist…
G.A.W.
地を這う難破船
オタク商品研究所plus
end-point 科学に佇む心と体
conflict error
Technobahn
痛いニュース(ノ∀`)
◆データベース系
報道監視まとめWIKI
放送されない政治家の思想と実績
エロゲ販売規制問題まとめwiki
子供の犯罪被害データベース
政治ブログランキング
無法地帯
ウェブ石碑
◆読書系
幻影の書庫
ジャックハマー
taipeimonochrome ミステリっぽい本とプログレっぽい音樂
ミームの死骸を待ちながら
隠れ蓑~penseur~
◆芸術系
檸檬通り
僕のアベノライフ
◆写真系
JUNK GARDEN
染谷翔の自転車世界一周ワロスw
◆音楽系
kaiの判別式
mosaik - electronic music
19's Sound Factory
Aliced Twilightz
Iemitsu.
◆アニメ系
Other voices-遠い声-
フジテレビ“ノイタミナ” TVアニメ 東のエデン
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
化物語
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。