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『傾ぐ世界 Poltergeist』

いつものように中庭を通りながらサークル部屋に入ると、見知らぬ顔の男が1人、部長と机の上のチェス盤をはさみ顔をつき合わせていた。

「おはようございます……ってあれ、部長、その人は?」

二人が顔をあげ、こちらを見る。

「おはよう。今日は遅かったな」
「ちょっと今日の授業の復習をしていたもので──そちらの方は?」

知らない男は手を上げて軽く会釈をした。こちらも軽く頭を下げる。

「はじめまして。こっちはそうだなぁ、コイツの古い友人さ」

そう云って男は部長の方を指差した。

「中学が同じだっただけさ」
「つれないなぁ。こうして折角遊びに来てやったというのに」
「お前の暇つぶしに付き合わされて喜ぶ趣味はないよ」

どうやらそういう間柄らしい。私は荷物を置いて二人が挟んでいるチェス盤の横に座り込んだ。

「あれ、部長チェスなんか嗜むんですか?」
「いいや、こまの動かし方も知らないよ。ただこいつが少しは知ってるらしいからさ。教えてもらってるところだ」
「俺もまぁ、駒の動かし方と簡単な戦略ぐらいしか覚えてないけどな」

そう云って男はポーンの駒の特徴を説明し始めた。

「こいつは将棋の歩に当たる駒だが、動き自体はたぶん、一番複雑だ……ポーンは最初だけ──」

男はポーンの基本的な動きを部長に伝授して行く。

「なるほどね。という事は戦略自体も大分将棋とは違うんだな」
「あぁ、イメージとしては初めから詰め将棋してるような感じだ。やってみりゃわかる」
「ルールはそれでオワリか?」
「あぁ、じゃあそろそろ実践と行くか」

男はそのままチェスの駒を初期配置に置いて行く。

「黒が先手だ。お前からどうぞ」
「ふん…………」

軽く鼻を鳴らすと、部長はまず手始めにクイーンの前のボーンをニマス前方に動かした。

「……なんですか、それ」
「そういうものなんだよ」
「チェスのルールはかなり変則的だからね。将棋の駒使い廻しできないルール程度に考えてると痛い目を見るよ」

そう教えてくれた後、男は同様にクイーン前のボーンを同じようにニマス動かし、先ほどのボーンと真正面から向かい合わせる形にした。
……だいぶよく解らないゲームのようだ。チェスのルールぐらいは知っていた方が大人らしいだろうか。
日本人は知らない方が大半だろうと思うけれど。

「そははそうと」と、ふと気がついたように男は顔を挙げ、こちらを向いた。「君はこのサークルの部員?」
「え、えぇ。そうですよ。一年でまだ入ったばっかりですけどね」
「君も大分変わってるね。こんな何やってるかも解らないようなサークルに入るなんて」
「自分でもなんで入ったのか良く解らないんですよ」

そう云って今年の四月を思い返す。
他にも沢山あるサークルの中で、何故かこのサークルを選んでしまった自分。人員が多いわけでもなければ明確な目的があるわけでもない。……おまけに楽しそうでもない。
ただ時々旅行が出来る、みたいな話に惹かれたのだろうか。特に“タダで”という部分に。

「その癖、まだ一度も活動らしい活動はしてないんですよね」
「……毎週活動するようになったら死んでしまうな」

そう云って部長はナイトの駒を動かした。男もすかさずビショップを動かす。
チェス盤は意外と狭く、こうしてみると一瞬にして泥仕合になりそうだが、ルールを知らない私にはそれすらも良く解らない。

「ソレはそうと聞いてくれ。ウチの家にはポルターガイストがでるんだが」

男は唐突にそんな話を振ってきた。

「は? ポルターガイストって……本気ですか?」
「本気も本当さ。毎日色々と被害にあって困ってるのさ。あぁ誰か何とかしてくれないかナァ」

そう云って笑いながら男はルークを動かした。部長はそこではたと悩んでしまう。

「ポルターガイストって……具体的にはどんな被害にあってるんですか?」
「そうだなぁ……」顔を上に向け目を瞑り、思い出すように考え込む男。

「例えば扉が勝手に開いたり、逆にしまったり──モノがいきなり物凄い勢いで転がりだしたり。そんな感じかナァ。あ、あと時々物凄い音がする。バキッって感じの」
「────それ本当ですか?」
「嘘言ってどうするのさ。全部本当の事だよ」

そんな話をしながらも男は楽しそうにニヤニヤと笑っている。

「本当なら大変な話ですけど……笑い事じゃないと思いますが」
「ところが実は……本当なんだな。これが」

部長が軽く合いの手をいれ、ボーンをルークの射線上に動かした。

「あれ、部長知ってるんですか?」
「知ってるも何もこの目で見てきたからな。こいつの言ってることは全部本当のことだよ」

そういいながら部長は男を白い目で見た。

「お前、誰にでもその話振るのか?」
「そうか? 悪くない話題だと思うけどな。あくまで冗談なんだし別にいいとおもうけど」
「あぁやっぱり冗談なんですか」
「いや、ジョークだけど本当の話だよ」

だからどっちなんですか……

「霊障にあってるのは本当のことだけどあまり気にはしてないって事ですか?」
「ま、確かにもう気にはしてないね──」

男はそう云って肩をすくめた。なんだか本当に良くわからない話だ。

「うーん、友達に霊感がある女の子がいるんですけど……連れて行って見ますか?」
「マ ジ デ 。そりゃあいいね。是非お願いするよ」

小躍りしそうな勢いで喜ぶ男に、部長はおいと声をかけた。

「お前のジョークに他人を巻き込むな。あとさっさと駒を動かせ。──そしておい、その霊感のある女って誰だ。今度つれて来い」
「…………」

えーーー。なんか面倒な話になってしまった。どうしてこうなった。

「いいですけど……なんで私がそんな事しなきゃいけないんですか」
「サークル活動をより磐石なものにするためだ」

謎のサークル活動をオカルティックな方向に強化するのはどうかと思うけれど。

「で、結局なんなんですか、そのポルターガイスト。どうして欲しいんですか」
「どうする必要も無い。こいつの家の怪奇現象は別になんの変哲もない物理現象に過ぎないんだからな」
「扉が勝手に開いたりすることがですか?」
「その通りだよ」

部長は大して面白くもなさそうな顔をして男に顔を振った。

「いい加減に説明してやれ」
「やだよ。あれは本当にポルターガイストなんだぜ。俺がそう決めたんだ」
「……どういう事ですか」

本当によく解らないのだけれど。
彼らは何をいっているんだろうか。

「つまりさぁ」部長は仕方なさそうに片肘を突くと、


『こいつの家はひどく傾いてるんだよ』


そう云った。

「ポルターガイストの原因は全てそれ。扉が勝手に開くのは傾いてるんだから重力にしたがって動いてるだけさ。勝手に閉まるのも同じ事。モノが勝手に凄い勢いで転がるのは床が斜めになってるから。丸いものなら加速度の影響でかなりいきおいよく転がって行くよ。別に不思議でもなんでもない」

じゃあ、と私は口を開いていた。

「ラップ音の原因は……」
「家が傾いてるんだ。構造的に負荷が掛かってくる部分が勿論ある。音の原因は家が軋みを挙げているだけだよ。──そのうち本当にあの家は倒壊するだろうな」
「おいこら、そのうち俺の家が倒壊するかのような言い方はやめろ」
「事実を言ってるだけだ」

そう云って部長はビショップを動かした。「チェックメイト」

「……いつの間にか負けてるし」
「真面目に指さないからだよ」
「自分から誘っといてなんだけどチェスって意外と奥が深いな」
「将棋とは又違ったボードゲームだからな。下位互換と言うわけじゃないようだ」

部長は駒を並べなおし始める。男はしぶしぶとその光景を眺めている。

「と、そう云う訳だ。こいつの家に霊能力者連れていったってなんにもないぞ」
「よく解りましたよ……」

私は大きくため息をついた。本当のことで冗談とはそういう意味だったのか。
全く、まぎらわしい。……ま、正しい意味でジョークなのではあろうけれど。

「そういやぁ」と男はそこで口を開いた。

「霊能力とか超能力ってのも同じようなもんだって教授は言ってたな」
「同じようなもんだとは?」

部長が少し興味を持ったように顔を上げた。私も釣られて男の方を見る。

「つまり視点の問題だな。家が傾いてるってことを理解できない人間が、あれらのただの物理現象を怪奇現象と勘違いするようなものだって」
「しかし……どういう視点に立てば超能力などを普通の物理現象に還元できるんだ?」
「それは──そういう奴らは普通の人間には視えてない世界が見えるんだと。或いはそういう世界、物理現象が存在するのだと。それがどういう事かは知らないけどさ」

うーん、と男は話を思い出すように頭をひねり始めた。

「じゃあ心霊現象などはまだ人間が解明してないなんらかの現象による影響によって起こる物理現象であると?」

私はとりあえずなんとなくそんなイメージで話に加わった。

「まぁうん、つまりそんなところだと思う」
「そりゃあなんらかの現象だろう。現象でない事象などこの世には存在しないのだからな」

部長はなにを当たり前のことを、という風な顔で男を見た。

「で、その現象ってのは一体何なんだ?」
「さぁな。教授は『ヒッグスの海』が作用してるとかなんとか……あるいは『エントロピーへの極所作用』とか。『時間反転対称性 』かも知れないと云ったかなぁ」
「…………なんですかそれは」

何を云ってるのか全く理解できない。

「俺にもわからん」男はそう云って肩をすくめた。

部長の方は相変わらずむすっとした顔をしたまま微動だにしない。

どんな現象が作用しているにしても、私にはそれを理解できない気がしてならなかった。
ありとあらゆる謎が物理的に解明可能だとしても。

わたしにとって世界は傾いたままなのかもしれない。

傾いた家のポルターガイストを見抜けなかった私には、世の中は少し複雑すぎるのかもしれない。

あるいは……

総ては“慣れ”なのかもしれないな、とふと思った。

世界が斜めになっているなら、それに慣れた私に本質など見えるはずもない。

ソレは人間の意識、認識、魂そのものが異質であり、世界にとって傾いた存在であるからか。

斜めなのは世界か私か。

或いは全てが、異質なものか。

ソレを決めるのもやはり。視点以外にはありえないのだけれど。


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― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
 「思い立ったが吉日」
 「継続は力なり」

口癖/
 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
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