アイロニーへの精神命題
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或いは、独り言と愚痴と対話の自己嫌悪にまみれた狂言日記
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第21我『株と資本のゼロサムゲーム』 zero sum game the fund the stock
2009.01.27(Tue)


窓の向こうでは、電光掲示板に映し出された数々の数字が目まぐるしく変動していた。

此処は証券を取引する場所のすぐ目の前の喫茶店。窓の外ではその取引内容が掲示板に忙しなく流され続け、一心不乱にそれらを眺めている人たちが居た。私たちの方はといえば、その数字たちを見るでもなくただ雑誌を広げたりしながら各々が好きに飲み物を飲んでいたりするだけだった。

その内に私は目の前に広げた新聞の中に変わった文字が躍っているのを発見して一人驚いた。


A「へぇ……。『中高生、ライブドアショックのお陰で株で大損』、ですって。こんな所にまで余波が広がっているんですね。あなたは知ってました?」

B「あ? あぁ、知っているも何も当たり前だろう。株などというモノは所詮がゼロサムゲーム、勝つか負けるかのどちらかでしかないんだ。その意味では、株などに素人である中高生が痛い目を見るのは一種必定さ」

A「ふーん。でも、彼らは一体何を買って損をしたんでしょうかね?」

B「そんなモノは『ライブドア株』を買って大損したに決まっているじゃないか。何がホリエモンを信じていた、だ。お前がホリエモンの、ライブドアの何を知っていたというのだ? 事実実際を知りもしないでただの“優勢企業”っぽいというマスコミのイメージ操作にすっかり騙された上での損害なのに、それこそただの被害者ぶるのは胸糞が悪い。認識の空洞化を棚に上げてあんたらには何も云う資格は無い、という事さ。……ま、有体に言えば、いい気味だ」

A「……また随分と険悪ですねぇ。なにかあったのですか?」

B「いやなに。俺はただホリエモンが嫌いだっただけで、それに追従していた人間の事をそれこそホリエモンと同類と見て嫌いなだけなのさ。……まぁ株で損をするのは当たり前なのだから、同情も何も感じないのは事実だがね。中高生が“株”に興味を持つのは構わないとは思うが、ホリエモンなんぞに賭けるのは安直に過ぎて莫迦みたいだと思うだけだ」

A「莫迦、ですか?」

B「いや、俺自身は株についてなんら知識を持っている訳じゃない一素人だから事実実際はどうなのか良く解らんがね。ただ、他にも手堅い企業は幾らでもあろうというのに、何故ライブドアなのか?という疑問は感じるな。……ま、それこそがマスコミの影響力、という訳さ。マスコミに踊らされて損をした、というだけの単純な話だ」

A「しかし、どちらかといえばあなたは“株”そのものに対しても、余りいいイメージを持っているようには見えませんね。率直な処を云えば、株そのものを嫌悪しているように見えますが……どうなんですか? 実際は」

ふん、と云って彼は目の前のコーラを一口飲み暫くして、その通りだよと云った。

B「俺は“株”があまり好きじゃない。あんな架空と幻想と価値の空洞をそのまま体現したようなもの、好きになれる訳が無いね。別にその存在自体を否定するつもりは無いが、その空疎なマネーゲームが結局なにをもたらすのかを考えるだけで気が滅入る」

A「へぇ、あなたはマネーゲームの何たるかを理解しているのですか?」

B「──さてね。その辺は解らないよ。少なくとも俺は、株については一般程度の知識しかない素人だが、ね。……その程度で構わなければちょっと話を聞いて欲しいとは思う」

A「? えぇ構いませんよ。退屈しない程度の話ならば大歓迎です」

B「それはそれは、恩に着るよ」

そう云うと彼は今まで読んでいた雑誌を閉じてこちらに向き直った。

B「まず第一に、“株”というモノは如何に『社会の縮図』と云われようが、それ自体では社会は成立しないものだ。当たり前だが、どんなに株を取引しても株価が上がっても、それだけで食料が生産され流通が成立する訳ではないのだからな」

A「それはそうです。だから、それ故の“マネーゲーム”な訳なのでしょう?」

B「そうだ。株だけで社会が成立する訳ではないのは自明の事実。だからそれ故に、俺は中高生が株をやる現実に嫌なものを感じるのさ。彼らが全員投資家となりただマネーゲームを繰り返すだけの人間になれば、それだけで社会は成立しえなくなるのだからな。社会の構成員全員が株だけをやり始めたら、そもそも株が対象にする“社会そのもの”が存続できないのだからな」

A「それはまぁ、そうですけどね。でもそれは別に大して差し迫った課題な訳ではないでしょう? まだ彼らがただの投資家になると決まった訳では在りませんし、第一に社会の構成員全員が投資家になるなんて事はまず在りえないじゃないですか」

B「それはそうだ。ただ……社会の構成員の多くが空疎なマネーゲームに奔走し、緩やかに勝ち負けを続ける世界というのも堅実じゃないと思うだけさ」

A「いえ、まずその“空疎なマネーゲーム”という部分が良く解らないのですよね。まず一体何をして株が『空疎な』と云うのですか?」

B「株が空疎なのは……それがそもそもマネーゲームだからさ。マネーゲームそのものがまずすべからく“空疎”なんだよ。まさに、『金だけが飛び交うゲームそのもの』が金以外何も無いという意味で“空疎”。『勝つか負けるかしかないゲームそのもの』が何も生み出さないという意味で“空疎”。──という訳さ」

A「──いまいち解りかねますね」

B「考えても見ろ。“株式”の世界は一体どんなものなんだと思う? 永遠に金を生み出し続ける市場だとでも云うのかい?」

A「違うのですか?」

B「それが全く違うのさ。そもそもこの資本主義社会の中で、永遠に金を生み出し続けるものなど──永遠に価値を持ち続けるものなど存在しないんだよ。それは仮想の“株取引”でも同じ事なのさ。
……“株”はそもそもが空疎なモノだ。そこには『勝つか負けるか』のゼロサムゲームしかない、、、、、、、、、、、のだからな。誰かが儲ければ、その分誰かが損をする。それがゼロサムゲーム──マネーゲームの本質だろう? 株も、まさにそのままそういったゲームなのさ」

A「そうなのですか? しかしそんな風には見えないのですが……どちらかと云えば市場が好調ならば、投資している誰もが儲かるような気がする、、、、のですが……」

B「そこが株のカラクリであり本質でもあるのさ。一見すると半永久的に金を生産し続けるかのような市場だが、実際は全然違う。いや、事実実際はどうあれそれこそがそもそも“株”というモノなのさ。
──そうだな。株というモノは云うなれば『将来に肩代わりさせた借金』のようなモノなのさ」

A「……えぇ? 株って借金なのですか?」

B「のようなモノ、、、、、、だ。……まぁ、意味的にはまさに『借金』だと俺は思う訳だが、実際もそんな感じだと思う。
──要するに、未来の誰かに借金の返済を押し付ける行為、なのさ」

A「──まだよく解らないのですが……」

B「単純な例で考えてみよう。まず始めに誰かが500万円で株を買ったとする。そしてそれを1000万円で売却したとしよう。これで差し引き500万円の利益となる訳だな? そして問題なのが次だ。売却できた以上その株を1000万円で購入した人が居る訳だが、その時点でその株の価値が0円になったとする。するとその人間は総計で1000万円損害を被った訳だ。此処まではいいな?」

A「えぇ構いません。しかしそれが『未来の誰かに借金の返済』を押し付けた、という意味なのですか? それにしても500万円ほど損害が大きいのですけれど?」

B「何を云っているんだ。一番最初にその株が売りに出されたときに500万円で購入した人が居るはずであろう。……あいや、違う。その一番最初に購入した人間は500万円で売りに出しているのだから差し引きはゼロだ。一番最後に買った人間が500万円多く損をしているのは、単純にその株自体の値段が500万円から0円になった分の損害だ」

A「あぁそうですね。……あ、成る程。それが未来の誰かへの借金を押し付けるという意味なのですね? つまり、最終的に損害を被った人間の分のお金が、儲けた人の懐に入る、と」

B「そうだ。実際の取引はもっと複雑で様々な要素が絡むものだが、それでもその本質は変わらない。つまり、誰かが儲けた分、誰かがその分だけ損をしているのさ。それがマネーゲームたる所以な訳だ」

A「確かにソレはそうなんですけど……でも実際にはそんなに単純でもないでしょう? そもそも、株やっている人達の間だけで金がぐるぐる回っているだけでは、市場は成立しないと思うのですが……。だってそうでしょう? 100万円が二人の間をぐるぐる回るだけでは誰の儲けにも無いっていないのと同じように、お金がぐるぐる回るだけでは誰の利潤にもならず結果その金が消費に回る事も無いからです」

B「お前は『勝ち逃げ』って言葉を知らんのか? 勝ったまま勝負を降りるから株は本当の意味で“利益”を生み出すのだ。逆に云えば勝ち逃げが在るから誰かが損をするんだよ。資金を永久に還流させて儲けた気になるのは莫迦だけだ。
──それに第二に、株はただ金がくるくると回るだけの市場じゃないのさ。新しい投資家による金の注入だってあるし……そもそも株のその本質である『未来の誰かへ借金を押し付ける』という部分が働いているという事は、現状ではまだ誰も、、、、、、、、決定的な損をしていないという事に他ならないのさ。だから市場が拡大し、成立しているように見えるだけなんだ」

A「あぁそれもそうですね。『未来の誰かに』借金を押し付けるという事は、まだ誰にもその負債が確定していないという事なのですか」

B「例えば、今この瞬間一瞬にして日本経済が崩壊し全ての“株”の価値が0になったとしよう。するとその時になって初めて、『全ての人間の利益と、損害』が確定するのさ。それまでに金を手に入れた分の借金を、損害を受けた人間全員で返したという仕組みだ。それが株という訳さ」

A「それは……確かにゼロサムのマネーゲームですね。……空恐ろしい感じの」

B「実際には誰かがちょっと儲けてその分誰かが損をする、という緩やかな勝ち負けの世界な訳だが、それでもゼロサムの世界である事に違いは無かろう。少しでも高く売り抜けた人間が勝ち組で、買ったときよりも低い値段で売った人間が負け、という訳さ。あらゆる会社がつぶれる可能性を持っている以上、全ての儲けは誰かの負債に成る可能性がある。永遠に成長し続けて永劫に株価が下落しない会社があれば、話は別だがね。……いや、それでも永遠などないという意味で言えば、永遠に金を生み続ける──永遠に儲け続ける事もまた不可能さ。
……ま、結局は誰かに借金を押し付けているだけ、という意味で言えば“株式”などそれこそが空疎なマネーゲームには違いあるまい?
──ときにあんた、本当の意味で“株”で儲けている人間が誰だか知っているかい?」

A「え? “本当の意味で”ですか? それは──誰でしょうか?」

B「簡単だ。それは『証券会社の人間』さ。株取引自体には参加せず、ただその売り買いを仲介して手数料というマージンを発生させて儲ける彼らこそ、真の意味で“株”で儲けている人間だ。
──取引をしている投資家は“負ける”可能性があるという時点でただのゲームの参加者だが、そのゲーム自体を主催している証券会社だけは、理論上は確実に儲ける事が出来る唯一の存在なのさ」

A「あぁ確かに。それは確かに本当の意味で、株で儲けている人間でしょう」

B「そうだ。一発逆転を狙うならば兎も角、株で恒常的に儲けたければ手数料を取る側に回るのが正解だ。取引そのものには参加せずにただその仲介の手数料を取るだけの企業というものは、それだけでその取引がなくならない限り安泰なのさ。実に美味しい商売だな」

成る程それもうそうだ、と思った。考えてみれば手数料を取る事が出来る商売は──銀行にせよ証券にせよ美味しいものだと思う。

B「ま、仲介などと云っても本屋や生鮮食料品などを扱う商売はより難しいのだがな。つまり、情報でない、実物を扱い商売ほど難しいというわけだ。万引きされたり腐らせたりするだけで取引が仲介できなくなるのだからな。その損害は全て自分で負わねばならない。……重要なのは、情報でのやり取りが可能で情報だけのやり取りが可能な仲介業が美味しい、という事さ」

A「あぁそうですね。実物を扱う方が何かと面倒が多いでしょう。逆に電子情報だけでやり取りが出来る商売は……楽でしょうね。そのシステムの構築や維持が難しいであろうという点を除けば」

B「ま、この資本社会で価値が永遠になくならないというものも又存在しないのだがね。この世界の全てはすべからくゼロサムなのさ。誰かが勝って誰かが負ける。そんな世界だ」

A「そうなのですか? 永遠に価値が下がらないものはない……というのはまぁ理解できますが、それにしても社会そのものが常にゼロサムであるなんて云ったら──それこそ社会が成立しないように思うのですが?」

B「だから社会の縮図が“株”という意味がそこにもあるのさ。つまり、将来に借金を肩代わりして金を儲けて、それをまわして消費して誰かが儲けて、一方で誰かが又借金をして消費して金を還流させ誰かの借金を埋める。それが社会なのさ。未来に借金の無い社会など存在しないのだよ。借金そのものが未来への負債であるという、その意味でもね」

A「…………それは本当にそうなのですか? 今から考えてみると、あなたの言葉の全部が嘘に聞こえてくるのですが──」

B「さてね。俺の言葉が正しいかどうかを俺が証明する事は出来かねるね。なんせ俺はただの素人なのだからな。──ただま、俺はただ思った事を云っているだけだ。それを確認したければ勉強でもして勝手にすればいい、というだけの事だ」

A「無責任ですねぇ」

B「あらゆる事に責任を負う事もまた不可能だよ。それに、かのようなくだらない俺の言葉にそもそも責任が発生するはずも無いさ。俺の言葉に宿るものはただの“たわごと”程度が関の山だろう? それ以上の意味など宿りようも無いと俺は思うけどね」

A「少なくとも、私に対しては説明責任の放棄で少しばかり無責任ではありますけどね」

B「無責任にでも発言する事はあるさ。それが是が非か知るためにも人に話す意味はあるだろう? 無責任といえばそう、人に影響を与える立場にある人がくだらない失言を繰り返すときにでも云ってやれよ。それこそ、正直に思っている事を云えば許してくれる、なんぞというくだらない風潮を生み出しつつあるかの人間にでもな……」

A「それも、そうですかねぇ」

B「それでも、そうなんだよ。
──それはそうと、最後の質問だ。あんた、永遠に価値の変わらないモノはこの世に存在すると思うか?」

A「……さぁ。永遠かどうかは解りませんけれどね。『金』とか『ダイヤ』とかでは──無いのでしょうね。あなたの事ですから」

B「そうだな。『金』や『ダイヤ』はその鉱脈が発見され大量に出回った瞬間に価値が暴落するという意味では、価値が普遍な代物ではない。──正解はその通り、価値が変動しないものは何処にも存在しない。
……それが存在するならば──そう。“己の中で普遍に価値あるモノ”それだけさ」

A「己の中で、普遍に価値あるモノ、ですか?」

B「そうだ。それ自体はなんでも構わないのさ。ワインでも漫画でもそれこそフィギュアでも、その主観──己が価値あると思ったものについてだけは──それに金を払うだけの価値は永遠にあるのだ。
──“価値”というものはそれ自体は客観的なものに思えるかも知れないが、実際はそんな事は無いのさ。価値は常に自己のその主観が決める“そのものの価値”だ。自分が金を払う意義があると思えないものに金を払う価値が無いのと同様に、価値あるモノはその主観に於いて“価値がある”と判断された結果なのさ」

A「それは本当に──そうなのですか?」

B「その判断もまた自分で下すしかないね。俺はただ俺の考えを説明するだけさ。
──まぁ、“価値”の形態自体は幾つもある。まず第一に『主観的価値判断』。それに金を払うだけの価値を認める能動的な行為が、主観的な価値判断だ。趣味の品を買う事も生活必需品を買う事もコレに当てはまる。
次に『客観的価値判断』。大多数や大衆をして価値があると判断できる代物をして、価値があると認識する事さ。ブランドなどはつまりそういう事さ。
最後に『誤認型価値判断』。誰かが『コレは価値がある』と云うのを聞くことで、それに価値があると判断する行為の事だ。しかしまぁ、コレ自体は別に普通の事さ。判断を他人の感想に頼っているだけでな。これはそう、美術品を見てこれは価値がありそうだと思う事に近い。事実実際それが本物かどうかを判断できない以上、他人の判断を基準にする以外には無いという事さ。それが自分にとって間違いである可能性がある時点で、それは誤認に近いという意味だ。
──ま、あらゆる価値判断が常に“主観”による判断である以上、世界をして永遠に価値が普遍なモノなど初めから存在しないのさ。あるのは常に、自分にとって、、、、、、価値ある代物だけ、なのだ」

A「……そのあなたの言葉も、そこまで信じていいやら、ですね」

B「だから、それも結局“主観”による判断でしかないのさ。俺の言葉に“価値”を見出すのもそうしないのも、最終的にはその主観的な価値判断による決定でしかありえない。それが自分以外の大衆に認められたときだけ、それが客観的事実に成り代わるだけで、な……」

A「ふーん……。では、あなたのその言葉は結局、大衆をして価値があるのでしょうかねぇ?」

B「云ったろ、俺の言葉はただの“たわごと”だって。俺はただ俺の言葉を吐き続けるだけだ。あんたはただ俺の言葉を聞いて、それが事実実際どうなのかを考えるだけでも、俺からすればそれで十分なのさ」

A「欲がないですねぇ」

いいや、興味が無いんだよ──そう云って彼はまた唐突に雑誌を読み始めてしまった。

果てさて私は窓の外の電光掲示板をただ眺める。社会は本当に、未来への借金を繰り返す事で成立しているのだろうかどうなのか、それだけを考えながら。

それでも願わくば、人間が永劫に繁栄することだけを願って。

──そう云えば、彼は人間が永遠に生き続けるべきだと思っているのだろうか?

彼の言説からは、ただ彼の本心は何も見えてこなかった。そう思った。

窓の外はいつの間にか、雨。

第21我 了
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