FC2ブログ
『例えばそいつの生きる意味』

女は頬杖をつきながらやる気なさそうに呟いた。

「7月はだいぶ休んでしまいましたね。──何か理由でもあったんですか?」

その問いに答えが返ってくる。

「あるといえばあるが強いて云えばない。本質とはえてしてそういうものだ。──例えばそう、強烈な動機を自分の中に感じた事は? 俺は全くないんだ。どうしようもなく、どうしようもなくなり、どうしようもなくなって、どうにかしなければと感じた事が無いんだ。それはどういうことだと思う?」

「さぁて、消極的という意味ですか? あるいは無気力的」

「気力がないわけじゃないし積極的になれないわけでもない。ただ──自分が不確かなのだ」

「自分が自分でないと?」

「俺は俺だ。だが俺という存在は確固として存在しているようには感じられない。俺が此処に居るのは一体何の為なのであろうか? 自我は確かに此処にある。だが、その自我の脆弱性を常に感じているのも確かなんだ」

「常に不安を感じている?」

「別に。いや、どうかな。だが不安と言うような感じでもない。脆い……いや、危うい──何とも違う。自分という存在の小ささかな。それをたまに感じる」

「なにか強烈な動機があれば、そんな自分も変われるかも知れないと?」

「違うのかい? 俺は強烈で爆発的な、そんな動機を人間が持つことが出来たならば、それはとても素晴らしい事じゃないのかな」

「でしょうね」

「だが、そんなものどうやれば手に入れられるんだ。世界一周でも目標にするか? でかい目標を立てるのか? 力強い動機を持った人を見ていると途端に自分の小ささを感じる。かといって自分にそんな強烈な動機はもう手に入らないんじゃないかと思う。だって俺には動機を生み出すための動機がないから」

「なにか新しい事に挑戦でもしてみたら?」

「俺みたいな奴がいったい今更なにに挑戦するのさ」

「まぁソレを云ったらその通りなんですがねーほら、今はネットとかできるし」

「ネットの使い方は良く解らない。たぶんあんまり使ったことがないから」

「そういうもんなんですか?」

「そういうもんらしい」

「初めて知りましたよ。また一つ賢くなったような気がしますよ」

「よかったな。そして俺はなにも変わらずだ。相談してみた俺が馬鹿みたいじゃないか」

「馬鹿はどっちですか」

「というと?」

「幽霊に生きるための動機なんか必要なんですかって話」

女は独り言を呟いて窓の外を見た。

部屋の中には彼女以外誰も居ない。


魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
『偽装幻感覚 例えばある虫の話』

※微グロ注意。主に虫とか。


ぼんやりと周囲を眺める。
「それで、“ソレ”はどんな特徴があるの?」
大学によくある狭苦しい教授部屋。周囲に資料と言う名の本や紙束が本棚の中にぎゅうぎゅうに押し込まれている。足の踏み場は机へと続く一本道しかないような状況だ。
「──特徴、というと? 例えばどんな」
私はその中で無理やりに置かれた折り畳み型の椅子に腰掛けている。
「例えば……そうね、習性というか、生態というか──特に“発生しやすい時期”とかあれば聞きたいのだけれど」
話し相手はかろうじて机の上に築かれた本のビル群の間から顔を覗かせている。20代後半、或いは多少若く見える30代前半と言ったところ、いわゆる知的な女性的な『女性』。あつらえたようにメガネまでかけているが、多少身なりには気をつけているのか、野暮ったい感じは全くしない。
「時期……ですか。年中出てきてますが、しいて云えばこの時期は多少多くなる気がしますね」
「このジメジメムシムシした時期に? ま、それは確かに”らしい”けれどね」
私の方に顔も向けず、黙々と作業をしつつ質問だけを繰り返す。
「じゃあ好きな場所とかは?」
「それも特には。まぁ水場とか不衛生な場所、あるいは──強いて云えば石の下とかは、少し多いような気がします」
「ははん、それはますます“らしい”な」
そう云って鼻を鳴らす女性。
「飛んで火にいる夏の蟲っと……そういや極端に寒いところとかはどうなんだ? 雪国に行ったことは?」
それによほど興味があるのかやっと顔を上げて私の顔を見た。メガネを押し上げる仕草が堂に入っている。
「さぁ、あいにくと旅行はしないので。雪国云った事もないので何とも云えません。たぶん、あまり変わらないと思いますけど」
「私は『予想』じゃなくて『事実』が知りたいんだけれどね──。ま、解らないんじゃしょうがないか」
彼女はそう云ってここらで休憩とばかりにタバコに火をつけた。中南海。マニアックなタバコのような気もするが如何せん私は喫煙家ではないのでよく解らない。
味も知らない。
「ふぅ……ん──おっ」彼女は紫煙を吐きそこではたと気がついたようにタバコの先を見た。「そうそう、そいつ、火は大丈夫なのかい? 流石に高温では死ぬんじゃないのか?」
私は焚き火のようなイメージを頭に思い浮かべる。
「火は……確かに避けます。でも、あまり近づきたくないってだけな気もします」
「死なないの?」
「さぁ、解りません」
ふぅん、そう云って彼女はまた紫煙を吐いた。
「その虫面白いネェ……いや、本当に虫なのかな。まぁいいや、是非とも研究してみたいナァ」
「してみればいいじゃないですか」
横目で私の顔を流し見る。その目にはなんの感情もこもっては居ない。
「んじゃ、そいつは何処にでもいるもんなの? どんな場所でも湧いて出てくる?」
「基本的には。ただ密閉空間の中では見かけません。たぶん入れないんじゃないですか」
「普通に考えりゃそりゃそうだがね」
とんとん、と机を指で叩く。そろそろ本題だ、とても云うかのように。
「じゃ、この部屋の中にもその“虫”はいるの?」

「はい」

私は顔を上げ、彼女の顔を見た。
その顔に張り付いている、一匹の“蟲”。
蠕動を繰り返し、彼女の顔の上を這い回る“ソレ”。

「そいつは今何処にいて……何匹ぐらい居るんだい?」

そうして、彼女は蟲を顔に貼り付けたままそう聞いてきた。私は目を逸らし、一つ息をつく。
「この部屋には今、三匹の蟲が居ます。……そこと、そこと──」

私は右手奥の本棚の上の部分と、床の一部を指差し──

「──あなたの顔に、一匹」

彼女の顔を指差した。蠕動する一匹の蟲を。
「へぇ」
興味深そうな息を吐き出し、彼女は自分の顔を右手で軽く撫でまわした。ほほの部分に移動した蟲にも触れる。
「私の顔に虫が一匹ネェ……どう? 取れた?」
「…………いいえ」
未だにその綺麗な顔には蟲がビクビクと張り付いたままだ。
「簡単には取れない?」
彼女はその蟲を全く無視して、私にそう聞いてくる。
「──はい。吸盤かなんかで付いているみたいなので……」
「うへぇ、そりゃあいやだ」巫山戯た様な声を上げて大げさにリアクションをとる。「あなた、何とかできないの?」
「……私には、どうしようも──」
「そ、ま、それじゃしょうがないわね」
特に諦めた風でもなく、彼女は肩をすくめた。
「あなたが“ソレ”を見えるようになったきっかけはなんだったの?」
「──小学生の頃、一週間高熱を出して……生死をさまよって──それからです。見えるようになったのは」
ゾロゾロと這い回る蟲を見るようになったのは。
そいつは何処にでも現れ、いつでも動き回り、あらゆる物の上を這い回った。
「あーで、そいつ、どんな形態をしてるんだっけ?」
「──ナメクジのような」ナメクジを縦に潰して、触角を取ったような感じ。色味はソレをもっと濃くした感じで、カタツムリの貝殻のような色と模様と言ったら解りやすいだろうか。
表面は意外と硬く、たぶんクラゲっぽい弾力はあると思う(コリコリした感じ、みたいな
吸盤か何かで物体の表面に張り付いているのか、基本的には取ろうと思っても取れるようなものじゃない。その癖移動速度はゴキブリ程度に速いのだ。
「それはまた」グロイねぇ、と呟くのが聞こえた。
「しかもそいつ、通った後にはヌメヌメした粘液を残していくんだろう? 最悪じゃないか」
言葉とは裏腹に、彼女はまるで他人事のようにそう云った。
「……そうですね」
どうせ解るわけがないのだ。誰にも解りはしないのだ。
その蟲が通った後のものを食べなければならないという事の苦痛を。その蟲が這い回ったものを手に取り、服に着、布団で寝なければならないという事の本当の辛さを。
他人には誰一人として見えない蟲の所為で私は手袋も手放せない生活を余儀なくされている。
兎に角すきま一つ無い部屋を確保し、蟲が付いていない食料を用意し、そうしてやっと安心して生活が出来るようになるのだ。この歳になってようやく。
……解るか。
そのナメクジのような蟲を知らず食ってしまったときの気持ちが。
どこもかしこも遠慮なく蟲が這い回った後の部屋を利用する事の気持ちが。
それを嫌がるだけで怒られ、阻害された子供時代の記憶。
解るわけが無い。
「で。そいつ、どんな味がするの?」
胃が、無意識に裏返りそうになる。
無遠慮に、そんな事を聞いてくるものなのか。こいつは、どこか可笑しいんじゃないか。
──別に構わない。どっか可笑しいから私はこいつにこんな話をする気になったのだ。構う事はない。どうせコレきりの会話だ。
そうして吐き出したかったんじゃないのか。
……ここまで無遠慮に、そんな事を聞かれるとは思って居なかったけれど
「──味は、苦いです。途轍もなく。そいつが残した粘液も、」
「ふーん、悪いね、変なこと聞いて」それでも全く悪びれた様子はない。
「つー事は幻味もあるのか。いや、もう此処まで現実に密着すると幻視だけなわきゃないか。……しかし凄いね。あんたその他は全然まともなんだろう?」
ため息をつく。まともかどうかなんて聞かれても、もう私には分かりようもないことなのに
「さぁ、その蟲が見える以外では、特に特殊な経験はありませんよ」
「つまり、その虫だけがリアルに存在しているように知覚されるだけで、それ以外の幻覚体験はない訳だ。面白いね、そう云う事もあるんだ」
「さぁ、蟻走感とかあるぐらいですし、別に珍しくもないんじゃないですか?」
「よく知ってるねぇ、蟻走感なんて。──でもまぁいいや、そういうのとはまったく違うなぁ。ああいうのはほら、妄想だからさ」
私にはその違いがわからない。
「妄想と幻覚の違いって何ですか」
「妄想は思い込み。それが高じて幻を見ることもあるけどね。──で、幻覚の方は思い込みとか関係なく見る幻。しかも四六時中意味もなく蟲を見るなんて幻覚、聞いた事もないね」
「それはどうも」
私は、まだ霊感があったほうがマシだと思う。可笑しな意味もない蟲が見えるよりはまだマシだ。
科学的に幽霊など、ありえないのだけれど。
幽霊が触った後のものなら食べられそうだが、蟲は駄目だ。
「いいや、でもま、その脳の構造がわかればまた面白い研究が出来そうだねぇ」
そう云ってカカと笑った。全く、やはり何処まで行っても──他人事の世界なのだ。
私は立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「あ」と、折角なので云っておこうと思って彼女の方を振り返る。
「ん、どうした?」
なにかあったのかという顔でこちらを見る。
「まだ──」
そして私は自分の顔を指差す。ジュルジュルと、ベトベトと。

「顔に蟲、ついてますよ。べったりと」

右半分の顔を覆い隠すように張り付いた蟲の存在を教える。

彼女はきょとんとした顔をする。その顔の半分以上は、蟲によって隠れているけれど。
そう云って私は部屋を後にした。存在しないという事は素晴らしい事だ。

何も見えないという事は幸せな事だ。

もはやそんな事で禍福を語ったところで──それこそ幻覚のようにどうでもいい事でしかないのだけれど。

──この蟲の存在は、私しか知らないのだから。

みんながその蟲を知らない間に喰ってしまうのを、ただ眺めるだけだ。


魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
『とある男の手記』

一つ、目に付いたモノを手に取ってみた。カエルのストラップ。
デフォルメされて可愛くデザインされているといっても、はやりというかなんというか、元が元だけに可愛らしいというよりは精精キモカワという評価しか下せない代物だ。
周りを見渡せばそんな微妙なモノが所狭しと置いてある。
どう生きていればこんなに脈絡もなくモノを集める事ができるのだろうか。例えばこのストラップにしてもそう、ネックレスや趣味の悪い指輪などのアクセ、ガンプラから萌えキャラまで大小数十体のフィギュア、数多くの小さな動物モノから1m近くある巨大なぬいぐるみ、意味不明な調度品、民族工芸から小さな額縁に入った高価そうな絵画、巻数の揃わないマンガや小説、雑誌や古書までそこら辺に山積みにされている。
混沌としながらも渾然一体であり、それでいて整理されたこの部屋の主は、ただいま絶賛外出中だ。
これだけモノを詰め込みながら、ホコリ一つも積もっていないところを見ると、やはり綺麗好きで几帳面な性格なのだなぁとうかがえる。
自分だったらまず間違いなくホコリまみれにしてしまうだろう。フィギュアなどの掃除は、あれでいてかなり面倒なのだ。物が一つ増えれば、その部分の掃除の手間は幾何級数的に増えて行くというのが俺の持論だ。だから、俺の部屋にはモノが殆ど置かれていない。全部ダンボールに詰めている。
……本当は、普段からこまめに掃除していればホコリ自体そんなに積もるものではないのだが、どうにも自分はそういうのが面倒で、あげく綿ボコリが出来るまで部屋を放置してしまうのだ。
とまぁ、そんな事はどうでもいいとして、さて、今回はどうしようかと顎に手を当てて考え込む。
一度、大学のキャンパスで彼にどうしてこんな脈絡もなくモノを手に入れ、あまつさえそれをこうやって一つの部屋に飾っているのか聞いたことがある。
その時の彼の答えはこうだった。曰く、『毎度、お近づきの印に貰ってくる』のだそうだ。
なるほど確かに云いえて妙な話だと思ったのを覚えている。
おれ自身は彼に何かを要求された記憶も、あげた記憶もないのだが、若しかしてともすれば、自分の部屋から何かしらどうでもいいものが一つぐらいは消えているのかもしれない。
そんな事は、もはや今となっては調べようもないし、どうでもいいことだと思う。
“そんな事は”些細な事だろう。
少なくとも、おれ自身はそう思っている(他の人にとってどうかは知らないが)。

俺はその部屋をぐるっと見回した。ざっと見た限り数百は下らない量の代物がこの部屋にはある(つまり、それだけの数の被害者が存在するわけだ。全く持ってご冥福をお祈りする)。

「……さて」
俺は目に付いたどうでもいいモノ(簡単に加工したなにかの鉱石。店で買えば500円程度のものだろう)を手に取り、それを胸のポケットに忍ばせた。
本当はネイティブアメリカン辺りの幻惑的な民族工芸品(たぶんドリームキャッチャーとか云う奴だ)の方が欲しかったのだが、いかんせんモノが大きすぎるし手ぶらで持ち歩くには目立ちすぎる。
モノは一個貰い受けたのだし、もうこの部屋に用はないのでさっさと出て行くことにする。
俺は玄関から堂々と家を出ると、無断で複製させてもらった合鍵で扉を閉めた。
全く我ながら酷い話だと思うが、元々は彼の方が先に悪い事をしているのだからこれでおあいこである。
彼自身、こんな事では目くじらも立てないだろう。物が無くなっている事には気付いているかも知れないが、お互いに後ろ暗い行為だ。
──まぁ、たぶん彼はもう誰が盗んでいるのかも知っているのだろう。それでも何も言われないという事はつまり、そういう事なのだ。
さて、今日は家に帰ったらなにをしよう。大学の提出課題の期限も迫ってきている。少しぐらいは手をつけないと不味いだろう。
流石にネットからまるまる持ってくるのは気が引ける。それはいわゆる盗作だし、なにより大学に行って勉強している意味が無いじゃないか。
……まぁ、それでもギリギリまで手をつけない自分と、盗作でもさっさと提出する学生、どっちがヤル気があるのかといわれれば、はて微妙な気もするのだけれど。
帰り道の途中にあるコンビニに寄ってマンガ雑誌を立ち読みをして、それからデザートを買って家路に着く。それが此処に来たときの俺の習慣。
俺の日常。

家に着いた俺はすぐにパソコンの電源を入れた。
今時分、家に着いたらテレビをつけるという学生もそう居まい。そもそもウチにはテレビ自体が置いてないのだが。
冷凍してあったご飯をレンジに入れてスイッチを押した。解凍が終わるまでダラダラとネットを見て回る。今日もまた殺人事件。財布などは取られていないらしく、行きずりの犯行らしい。
残念な事だと、ぼんやりと思う。

X-ファイルというテレビドラマの中で印象に残っている話がある。
そいつはまぁ、いわゆる異常者なのだが、人の肝臓を喰って何十年と生き続ける化物でもあるのだ。
当然、人の肝臓を食うのだから、食われた人は死ぬわけだが、そいつはその“被害者の身につけていたものをコレクションする”という趣味があるのだ。
なるほど、ただ人を殺すのではなく、その戦利品をコレクションする、という思想は、子供ながらに自分の精神を大きく揺さぶったのを覚えている。
ただ殺されるよりは、それは“意味のある殺人だ”と。子供ながらに、そして今でも、そう思っているのだ。
勿論、自分は別に人を殺す趣味はないし、食人する特技も無い。

だが、現実にそんな事をしている奴がいると知ったときは少し、いや、かなり心ときめいたモノだ。

全くそいつはふてぶてしくもその行為を『お近づきの印』と言うのだから笑ってしまうが、それでも意味もなくモノを持ってくるだけで、何か意味が在ったかのように思えると言うもの面白い話だと思う。
殺すならせめて、そいつが持っていたモノを、生きていた証を、手元に残してあげようと──彼がそう考えているかどうかは知らないが、少なくとも自分にはそれが酷く羨ましかったのだ。
勿論、自分はそんな行為に参加するつもりは無い。興味はあるが、その為に一生を棒に振る可能性など持ちたくは無い。
その結果がこんなちぐはぐな行動なのだから、我ながら人間というモノは面白いものだと思う。
ふと思い出して俺は胸のポケットから加工済みの鉱石を取り出した。
これの元の持ち主は一体誰だったのだろうか。今もまだ生きているのだろうか。それとも死んでいるのだろうか。
もし死んでいたとして、この鉱石に憑いて、なにか物申したい事でもあるのだろうか。
「…………」
ま、そんな事は考えても仕方がないことだ。それを彼に聞くのはご法度であるし。
元より持ち主になど興味もない自分は、“ただ殺された人間が持っていたモノ”であると言うただそれだけでソレを持って来ているに過ぎないのだから。
自分はソレを手近にあったダンボールに無造作に突っ込んだ。
──
その瞬間、なにか違和感を感じた。ダンボールの中身をよく見てみる。
なにか足りないような気がした。なにか無くなっているような──
しかし考えたところでそんなものは分かりようもないのだった。整理しているわけでもなければ記録しているわけでもない。
何か無くなったところで、何か増えたところで、自分には解りようも無いのだ。このダンボールの中身の事など。
気のせいか──或いは、彼がモノを取り戻しに来たのかもしれないなどという楽しい妄想をしてから、自分はパソコンの操作に戻った。

レンジがご飯の解凍が終わった事を告げる音を立てる。
さて、今日は何を食べようか。健康的に納豆でもいくか、そう考えながら席を立つ。

明日になれば、またあの部屋にはなにかモノが一つ多く置かれているに違いない。

いずれその内また何かを貰いにお邪魔しよう。


魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第26我『椅子と興味と快楽と』 chair - interest - pleasure

室内というには余りにも広大な空間の中を、私は壁を眺めながらゆっくりと歩いていく。

勿論、壁そのものを見ている訳ではなく壁に掛けられた数々の絵画を眺めているのであるが。私はそれらの芸術品を立ちながら見ていくが、実際にはその絵の前には全て長椅子が設置されていて、長時間一つの絵を鑑賞できるようになっている。

それらの絵を流し見ながら歩いていくと、一人の男が椅子に座って目の前の絵をじっと眺めているのに気が付いた。私は特に考えも無くそちらへと近づいて行き、同じ長椅子に腰を下ろす。

そして絵を見ながらその同席者に何気なく声を掛けた。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第25我『こじんの意思は尊重すべきか』 Necessary to esteem the intention?

私はただ、下を見ないようにして全体重を背中のフェンスに預けていた。

そこは周りよりも一回り大きいビルの屋上、その安全フェンスの外側、、である。要するに私は、このフェンスとビルの縁の間の2m無いわずかな間隙にへたり込んでいるのだ。戦々恐々と生きた心地のしない私の隣では、彼がのんびりと立ちながら缶コーラを煽っていた。

思わず蹴り飛ばしたくなったが、少しでも足を動かすと風に煽られて転落してしまうような気がしてそれは出来なかった。

取り合えず、恨めしそうな目でねめつけておく事にする。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第24我『多過ぎて、重過ぎる』 over many, over heavy

ビルの屋上にひときわ強い風が吹いて、背中を押された私は思わずフェンスに手をついてしまった。がしゃん、という耳障りな音が周囲に響く。

それでも彼は──その服をはためかせただけで、その身を煽られる事は無かった。

……周りのビルの中でも頭一つ抜けて高いビルの屋上。その安全フェンスに手をかけながら、私は彼を注視する。私が手をついているフェンスのその向こう側、、、、彼はビルの縁に限りなく近い場所に立っていた。

私が盛大に立てた音にも彼は反応しないで、ただ下界を見下ろしている。その横顔は、私の想像でしかないが、恐らくつまらない顔をしているに違いなかった。私は、そんな彼の背中に声を投げる。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第23我『空の元にいて不在』 One time, Stay there

手持ち無沙汰になったので、何気なく空を見上げてみた。

空には疎らに雲散り、心地いい風が吹いている。温かい日差しが私を包み、久しぶりに開放的な気分になった刹那、私は重大な見落としに気がついた。──私はいったい、何日ぶりに空を見上げたのだろうか、、、、、、、、、、、、、、、、? 

生きてる以上永劫に自分の上に在り続ける“空”を私が意識しない日が何日も続いていたなんて、考えただけでも可笑しい。私は一体、今まで何を視てきたのだろうか? 空すら視ないで何を見てきたというのだろうか?

それを思うと、たましいが凍てつくように寂しくなった。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第22我『子供に腐敗と負の遺産』 rotten child negative legacy

その部屋に足を一歩踏み入れると、その異様な雰囲気に思わず口元を押さえてしまった。

薄暗い部屋の中には異様な品々が生活観溢れるようにして配置されていた。首と体が捩れた人形。妙にリアルな人間の頭部。異星人を模した不気味な模型。天井から吊り下げられたマリオネット。そのどれもが妙に生々しく私に迫ってくる。部屋に入った瞬間から平衡感覚が崩れ、一瞬にして頭痛に襲われ始めた。喉元に迫る吐き気を懸命にこらえる。

その時、妙に暗い部屋の奥から私をこの部屋に呼んだ張本人が現われた。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第21我『株と資本のゼロサムゲーム』 zero sum game the fund the stock

窓の向こうでは、電光掲示板に映し出された数々の数字が目まぐるしく変動していた。

此処は証券を取引する場所のすぐ目の前の喫茶店。窓の外ではその取引内容が掲示板に忙しなく流され続け、一心不乱にそれらを眺めている人たちが居た。私たちの方はといえば、その数字たちを見るでもなくただ雑誌を広げたりしながら各々が好きに飲み物を飲んでいたりするだけだった。

その内に私は目の前に広げた新聞の中に変わった文字が躍っているのを発見して一人驚いた。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
第20我『占いと世界を秤』 weigh a moral in the world

何の変哲も無い朝。TVは天気予報から今日の運勢に変わり代わり映えしない朝を演出し続けている。

私は食後のお茶をすすりながら、自分の星座の運勢がテロップされたときだけ顔を挙げてソレを確認した。一瞬見ただけで思わず顔をしかめてしまった。一言で云えば最悪、か。今日のラッキーアイテムは『ハンカチ』、ラッキーカラーはピンクだそうだ。さてどうしたものか。

そう考えながら隣を見ると、彼は酷くつまらなそうな顔でTVを眺めていた。

魍魎ノ類 / COMMENT:0 / TRACKBACK:0
 

― 燈宮 仮月 ―
Hinomiya Kaduki

趣味/
 「読書」
 「音楽鑑賞」
 「妄想」

座右/
 「初心忘れるべからず」
 「思い立ったが吉日」
 「継続は力なり」

口癖/
 「結局は程度問題」
 「時と場合に因る」
 「何事も経験」

欠点/
 「すべて狂言、、、、、

 
『他ならぬ、他人の為に』
『それはつまり、因果のように』
『世はなべて殊もなく』
コミックス・コード
『爆発的情報進化 Meme Explosion』
『Fight and Flight』
『重力の中』
『ロストリモート』
『あんちのみ?』
『日常机上』
『頭蓋骨と頭痛の間で益体も無い話』
『都市なる伝説 Netlore』
『感情と、機械の生物 nothing but ism』
『“特別”もいずれ』
『Letter』
『細胞奴隷』
『死ヲ希シ慮ル事念ズ』
『All are the gradations』
『オール オア ナッシング』
『いつかの心を 忘れる心 for me any more』
『一般的に一般人は一般的に云って一般以下である』
『引き篭もりの愚者』
『人災について』
『世界の片隅で愚痴を云ったら自分に返ってくるって意外と真理』
『危機感欠如認知バイアス Somebody else's problem acknowledgment bias』
『命の重さ──言葉の重さ Weight the mind』
『Fortuna amicos conciliat, inopia amicos probat. 』
『せめて人間らしく』
『傾ぐ世界 Poltergeist』
『自殺考察(1) 墜落追悼』


◆学術系
国民が知らない反日の実態
FreeJapan.TV (国益最前線)
マンガ論争勃発-継続中
1ドットの声にもギガバイトの魂
Open ブログ
泉の波立ち
スタンダード 反社会学講座
哲学的な何か、あと科学とか
Me pudet imprudentiae meae.
博士の独り言
IT & Economics 池田信夫 blog
日本のここがおかしい
日本経済をボロボロにする人々
rarity0
Zopeジャンキー日記
古代ギリシア哲学と現代倫理学のページ
独白日誌
山下太郎のラテン語入門
Sankei Web
ダイヤモンド・オンライン(Diamond Online)
JAXA 宇宙航空研究開発機構
◆サブカル
GIGAZINE
分裂勘違い君劇場
破壊屋
チェキ空ブログ
制作のしおり
ハックルベリーに会いに行く
死ぬほど洒落に
島国大和のド畜生
日常ごっこ
SPOTWRITE
無人島日記
ニートの海外就職日記
As a Futurist…
G.A.W.
地を這う難破船
オタク商品研究所plus
end-point 科学に佇む心と体
conflict error
Technobahn
痛いニュース(ノ∀`)
◆データベース系
報道監視まとめWIKI
放送されない政治家の思想と実績
エロゲ販売規制問題まとめwiki
子供の犯罪被害データベース
政治ブログランキング
無法地帯
ウェブ石碑
◆読書系
幻影の書庫
ジャックハマー
taipeimonochrome ミステリっぽい本とプログレっぽい音樂
ミームの死骸を待ちながら
隠れ蓑~penseur~
◆芸術系
檸檬通り
僕のアベノライフ
◆写真系
JUNK GARDEN
染谷翔の自転車世界一周ワロスw
◆音楽系
kaiの判別式
mosaik - electronic music
19's Sound Factory
Aliced Twilightz
Iemitsu.
◆アニメ系
Other voices-遠い声-
フジテレビ“ノイタミナ” TVアニメ 東のエデン
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
化物語